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「豊富な資源」と「最先端テクノロジー」が両立する稀有な国・カナダの躍進

2024年8月28日掲載

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8月19日の午後、日本最大の小売業・セブン&アイ・ホールディングスに、カナダのコンビニエンスストア大手「アリマンタシォン・クシュタール(Alimentation Couche-Tard)」が買収提案を行った、というニュースが飛びこんできました。セブン&アイを完全買収するとしたら少なくとも5兆円が必要、もし現実となれば海外企業による日本企業買収としては最大級のものになります。

アリマンタシォン社の時価総額は、セブン&アイを上回る約86000億円。20244月期の売上高は692億ドル(約10兆円)でセブン&アイの約11兆円(242月期)とほぼ同じ。アリマンタシォン社は、「クシュタール」や「サークルK」ブランドで、北アメリカのほか欧州ではポーランドや北欧など世界約30カ国で約15000店を展開しています。もし両社が一緒になれば、世界的な小売業、コンビニチェーンの誕生となりますが、現状は「一方的な買収提案」で全く不透明です。

カナダ企業が日本のNo.1企業の買収に乗りだす、この事実に驚いた人も多かったと思います。このニュースは現在のカナダの国際的な立ち位置を証明することになりました。

これまで、カナダ企業の日本での存在感はほとんどありませんでしたが、7月にはAIのコーヒア社が富士通と協業を発表するなど、カナダの順調な経済状況と地政学的なメリットを活かしワールドワイドでの動きが目立ってきています。

カナダの順調な経済の証拠としては、先週の8月19日と21日に、「カナダの株価指数(S&Pトロント総合指数)」が最高値を更新。カナダ経済は極めて好調に推移しています。

資源国であり最先端の産業も非常に強い世界でも稀な国

以前のコラムに書いたようカナダは世界有数の資源国です。

石油埋蔵量はベネズエラやサウジアラビアに次いで世界第3位(石油の生産量は世界4位)。金の産出量は世界第4位、リチウムやニッケルなどの生産量も多く「EV用電池」の生産に必要な鉱物のほとんどが産出できる唯一の国。この数年、金、銀、プラチナのイギリスやスイスなどへの輸出が増加し、2023年のカナダの金の輸出額は過去最高を記録しています。

通常、資源国の多くは、その恵まれた恩恵から外貨を獲得できるため、産業の創出やイノベーションを起こす必要はありません。

しかしカナダは、有数の資源国でありながら最先端のITや製造業などの産業も非常に強い世界でも稀な国です。

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ロッキー山脈の壁を破った待望の「パイプライン」

今年の51日に、中部アルバータ州と西の太平洋に面したバンクーバーを結ぶ石油パイプライン『トランスマウンテン・パイプライン』の拡張がついに完了しました。

カナダの石油の97%はオイルサンドで、そのほとんどが内陸で中部の「アルバータ州」に集中しています。アルバータ州はカナダの中西部に位置し州都はエドモントン。オイルサンド、天然ガスなどの鉱物資源産業の主要な供給基地です。またカナダを代表する商業都市カルガリーは物流と交通の要所であり、石油産業の中心地です。

しかし、西部にはロッキー山脈が壁のようにそびえ、西の太平洋側への輸送には地理的な制限がありました。この問題の解決策として進められていたのが、このアルバータ州と太平洋に面しカナダ最大の港をもつバンクーバーを結ぶパイプライン『トランスマウンテン・パイプライン』の拡張プロジェクトです。

このプロジェクトが12年の歳月を経てついに完了、5月から本格的な輸送を開始しました。これにより今までは日量30万バレル前後だったアルバータからバンクーバーへの原油輸送量が3倍の『日量89万バレル』に増加しました。

このパイプラインの拡張で、太平洋側のマーケットへのアクセスが大幅に改善し、特に発展をつづけるインドへの輸出の拡大が見込まれます。既にインドの大手企業リライアンス・インダストリーズが200万バレル購入。インド・シッカ港のリアイアンスの世界最大の石油精製施設へ輸送が完了したとのことです。

また、これまでカナダ産の原油は「パイプラインの輸送能力の制約」により、「米国産より安い価格」での輸出となっていましたが、この拡張により価格差の縮小が実現。GDP増大に寄与することが見込まれます。

現に86日に発表されたカナダの「6月の貿易収支」は事前予想の183,800万カナダドルの赤字が63,800万カナダドルの黒字に。その要因は「原油と金の輸出が拡大」が主で、今回の「トランスマウンテン・パイプライン拡張」によるエネルギー商品の輸出11.7%増が寄与しています。

豊富な資源と技術力を持ち経済も順調、政治的な混乱もない、G7でも稀有な国カナダ。資源のインド・太平洋地域への輸出、AIなど最先端技術産業と巨大小売業の世界への進出。

順調な経済と地政学的なメリットを活かしたこの国と企業へ評価はますます高まっていくと思われます。

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