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経済大国・カナダ 成長と安定、高い潜在能力。「アメリカの好況」と「国際分業」が追い風に
2024年7月11日掲載
昨年末、大谷翔平がエンジェルスからの移籍先として有力な候補に挙がったのがトロント・ブルージェイズです。メジャーリーグで唯一アメリカ以外の球団。大谷選手の膨大な年棒を用意できる球団が少ない中、カナダの球団ながら、他のアメリカのチームと十分に戦える豊富な資金力で話題になりました。
G7の一国で経済大国の1つであるカナダ。もちろん知らない人はほとんどいない観光や留学先として大人気の国です。政治・経済ともに安定していて国際的なニュースに載ることは少ないのは事実です。
このカナダですが、最近「堅実な経済と今後の成長性」で大きく注目されています。
国際的な立ち位置ではNAFTA(北米自由貿易協定)の更新版である「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」を締結。北大西洋条約機構(NATO)に加盟、またアジア太平洋地域経済協力(APEC)の一員で「西側国家の中核」です。
そして経済面では、2024年の「世界の名目GDPランキング」ではロシアを上まわり第10位、名目成長率は4.8%で、G7の中ではアメリカの5.2%に次ぐ高い成長を続けています。
アメリカの隣国にして最大の貿易国
カナダはアメリカの最大の貿易国で、両国の関係は「現代で最も成功した2国関係」と称されます。地政学的には、国境の全てがアメリカと地続き、しかも世界最長の非武装国境で、陸路で人・物資が移動可能、「北米」というくくりで一体と見られています。
そして現在のアメリカの好況の影響や、長引く国際社会の分断で、日本やポーランドなどと同様、カナダも大きな「漁夫の利」を得ています。
広大な土地に眠る天然資源
面積は世界第2位と広大、鉱物やエネルギー資源、森林などが非常に豊富な「資源大国」です。石油埋蔵量ではベネズエラやサウジアラビアに次いで世界第3位(石油の生産量は世界4位)。金の産出量は世界第4位、リチウムやニッケルなどの生産量も多く「EV用電池」の生産に必要な鉱物のほとんどが産出できる唯一の国です。
特筆すべきは、豊かな水資源により「工業用電気料金」がドイツの半分、日本の約6割と格安。世界の多くの自動車メーカーがカナダのEV用電池の生産工場に多額の投資を行っています。
また2022年に成立のアメリカ「インフレ抑制法」(アメリカでEV自動車を購入時、最終組立や電池製造が北米の場合、3750ドルの補助)の恩恵を最も受けているのもカナダです。
世界情勢から強い追い風
現在の世界情勢からも、強い追い風が吹いています。2022年度のカナダの輸出は前年比で24.9%増、輸入も20.0%増加しています。
特に、ロシアのウクライナ侵攻への欧米の経済制裁による「石油や天然ガスの価格上昇」を受け、輸出額が大幅に増加。輸出で最も構成比が大きい「鉱物性生産品」が49.8%増と大きく増えました。「化学工業品」も41.4%増と大きく伸び、中でも「肥料」が2.2倍となっています。肥料の主要生産国がロシアのため、その分がカナダに回っています。
またアメリカと中国の対立によるサプライチェーン崩壊で、中国に代わる供給元としてアメリカへの輸送コストが安いカナダが期待されています。アメリカの大統領選でトランプ氏の再選の可能性が高まり「トランプ・トレード」の復活も予想されており、その場合はこの流れが加速します。
アメリカの51番目の州?
特にスポーツ面では、アメリアとカナダの国境は全くありません。
前述のようメジャーリーグでは「トロント・ブルージェイズ」がアメリカンリーグ東地区に所属。
北米で人気の高いアイスホッケー(NHL)はアメリカから25チーム、カナダから7チームの計32チームで構成され、最も人気のあるバスケットボールNBAにも「トロント・ラプターズ」が入っています。カナダがアメリカの51番目の州と言われるのも納得です。
アメリカにとって安全保障上、最も信頼できる国カナダ。
アメリカが国際分業を進める中、カナダの立ち位置はますます高まり、その存在感は増していきます。