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変化が始まったEU、欧州議会 選挙の連鎖は続くのか?

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2024年6月20日掲載

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6月6日から9日に、5年に1度の欧州連合(EU)の「欧州議会」選挙が実施されました。今回の選挙は、ウクライナへの支援をはじめ5年間のEUの政策が問われる選挙でした。

その結果はフランス、ドイツをなど多くの国で「右派・極右政党」が躍進、20%を超える議席を獲得しました。彼らはEU各国で高まる「インフレ」や「移民」「環境」問題への不満を背景にポピュリズム的な戦い方で支持を集めました。結果、これまでEUの環境、移民政策、ウクライナ支援に影響を与えそうです。

右派・極右政党が議席を伸ばした国は、フランス、ドイツ、ポーランド、イタリア、スペイン、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、チェコ、ハンガリー、オーストリアとなっています。

しかし大勢では、現職の欧州委員会委員長のフォンデアライエン氏が率いる中道右派の「欧州人民党(EPP)グループ」が10議席増の186議席を獲得し最大会派となり、連立3会派で過半数を維持。これによりEUの今までの政策が大きく転換するわけではないと思われます。

そもそも「欧州議会」とは?

欧州議会とは、一体どういう位置づけなのでしょうか?

欧州議会はEUの立法機関で、欧州委員会が提案するほとんどの政策、法案は、EU理事会とともに、この議会の承認が必要となります。またEUの予算案を否決する権限も持っています

選挙はEU加盟の現在27の国ごとに一斉に実施。議員定数は720人。加盟国の人口に比例して議席が配分され、最大はドイツの96議席(1カ国の上限議席)、続いてフランス81、イタリア76、スペイン61、ポーランド53と続きます。最少はルクセンブルク、マルタの6議席です。任期は5年です。

当選した場合は、国にかかわらず「各会派」に入って活動します。本会議はブリュッセルとフランス・ストラスブールで開かれます。そして欧州委員会委員長の任命にも影響力を持ちます。しかしEU各国の政治には直接関わることはありません。

では今回の欧州議会の選挙、主要3カ国ではどのようになったでしょうか。

EU主要国の選挙結果

まずドイツ。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第2党に。インフレ、エネルギー価格の上昇や移民・難民の拡大に対しての不満から、多くの支持を集めたようです。また2035年の「エンジン車販売原則禁止」に対して反対したことも躍進の原因。

フランスは、マリーヌ・ルペン氏の極右政党「国民連合(RN)」の得票率は31%と与党の倍を獲得しました。原因は、移民の受け入れ抑制とEVへの反対を掲げたのが大きいようです。

RNは、EUからの離脱まではいきませんが、自由貿易協定を否定するなど保護主義的な政策をとっています。

イタリアは、今回のサミットで存在感を出したメローニ首相が率いる「イタリアの同胞(FDI)」などの極右・右派「欧州保守改革(ECR)グループ」は4議席を増やして73議席を獲得し、メローニ氏への信任となりました。しかし彼女は、一昨年の就任から不法移民の阻止など右派的な政策をとりながら、外交ではウクライナ支援も支持、また中国の一帯一路からの離脱など親EUの政策をとっています。

EUの懸案事項

今回、右派・極右勢力が支持を伸ばした背景には、EUが進める今までの政策に反対の声が大きくなっていることがあります。今回の選挙での彼らの躍進で、下記の政策に影響を与えそうです。

まずは「移民・難民政策」です。

EUは移民・難民に対しては寛大な政策をとっていますが、これから不法移民の入国手続きを厳しくしていく予定でした。今回の極右・右派の躍進で、一層厳格な方向に進むでしょう。
 
そして「環境・気候問題」への対応です。

EUは2050年までの温暖化ガス排出量実質ゼロを実現のため、再生可能エネルギーやEVの導入を推進していますが、これに反対する右派が勢力を伸ばしました。

特にEVは価格が高く家計への負担が大きく、2035年の「エンジン車販売原則禁止」の延長が議論されるかもしれません。

3つ目は「ウクライナへの支援」です。

安全保障分野については、EU各国が権限を持っていて欧州議会は意見するだけの立場です。が、極右勢力にはロシアを支持、ウクライナへの軍事支援に否定的な議員もいてその政策に影響を与える可能性があります。

動いたマクロン大統領

そして前述のフランスで、右派・極右の躍進の結果にマクロン大統領は即座の反応。

下院議会を解散し選挙に突入しました。この戦いでも右派の勢いは確実で、「国民連合(RN)」が躍進し、ルペン氏が首相に就く可能性が出てきています。

オリンピックを間近に控えたフランスの政治情勢への懸念は、早速欧州金融市場に影響を与えています。これを受け、財政悪化の懸念から先週のフランス国債は急変動、株式や通貨も売られました。また連動して欧州株も下落するなど、ヨーロッパや世界のマーケットに影響を与えかねず警戒は高まっています。

2024年は世界で「選挙の年」といわれています。インドの総選挙ではモディ氏が大勝するとの予想を覆し辛勝となり、イギリスでは6月の頭にスナク首相が下院を解散、間もなく選挙となります。もちろんクライマックスはアメリカの大統領選になりますが、国内の衆議院の解散の可能性もまだあります。

こうした中、世界各国が保護主義化していく傾向は否定できません。

世界各地で続く「戦争と紛争」、世界規模で拡がる「移民・難民」、そして止まらない「気候変動」。

いったんグローバル化したトレンドですが、様々な困難な問題に立ち向かうために「自国は自国で守る」という流れが強まっているようです。ただこれは、ある方向に向かう時に必ず生じる「反作用」なのかもしれません。中長期的な視野を持つ必要があります。

そしてこのような流れの中でも、細部を観れば、日本にとって有利になる部分もあります。

例えばEU内で「EVへの完全移行」への異論が出ることは、日本の自動車産業にとってはチャンスになります。日本がリードするHVやPHVの技術が再注目され、日本の漁夫の利となります。

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