GLOBAL&TREND

国際社会における「漁夫の利」日本やポーランドが得る大きな経済的アドバンテージ

2024年4月10日掲載

gt20240410_image01.jpg

「漁夫の利」という言葉があります。

《鳥のシギが貝のハマグリの身を食べようとしたところ、ハマグリが貝を閉じてシギの口ばしを挟み抵抗。争っているところに漁夫が来て両方とも捕まえた》という話が起源だそうで、「両者が争っているのにつけ込んで第三者が利益を横取りすること」の例えです

この「漁夫の利」は、世界情勢や経済情勢を語る際にもよく使われます。紛争時やある国に大きな政治的または経済的なダメージが起きた際、近隣諸国に大きな利益が生じることはしばしば起こることです。

日本も何度かこの恩恵を受けました。1つは第一次世界大戦時。ヨーロッパが主戦場で、日本はアジアのドイツ領の占拠が主な任務でしたが、結果、戦勝国の1つとなり占拠したドイツ領を統治下に置きました。さらに主戦国のドイツ、フランス、ロシアなどの国力が疲弊、当時日本はイギリス、アメリカに次ぐ世界第3位の大国となってしまいました。

また第二次大戦後、どん底にあった日本経済を救ったのは「朝鮮戦争」です。朝鮮半島全土を巻きこんだ壮絶な戦争でしたが、隣国の日本はアメリカ軍の軍需物資を提供することで大きな利益を得ました。この「朝鮮特需」はその後の飛躍的な経済発展につながりました。

日本は「漁夫の利」の真っ只中

そして現在の日本は、主に中国が起因の下記の3つの「漁夫の利」を得ていると言われています。

第一は、地政学的に日本は中国、北朝鮮、ロシアの太平洋進出を防ぐ堤防の役割をしています。現状の米中の対立の高まり、台湾有事の危険性から、安全保障上、日本はアメリカにとって今まで以上に重要な立ち位置にいます。アメリカの日本に対する期待値は高く、しばらくは政治、経済の良好な協力関係が保たれると思われます。

第二は、中国のサプライチェーンの崩壊です。安全保障の観点から日米欧の自由主義陣営は、様々な製品の部品の調達先から中国を外しました。世界の工場と言われた中国で生産されていた工業製品や部品の調達先に日本企業が戻っています。特に半導体に関しては、台湾が世界の供給元になっていますが、万が一の台湾有事に備えての代替地の開発が急務で、その行先として日本、熊本のTSMC、またラピダスがIBMの技術協力を得て北海道・千歳への進出するなど、国内の製造業の活性化が始まっています。

第三は.中国経済の不透明感から、今まで中国に流れていた海外からの投資が引き上げられ、その潤沢な資金が日本のマーケットに向けられています。最近の日本企業の好業績や経営の透明性への取り組みも評価され、現在の株高の一因となっています。

また、これは「漁夫の利」とは言い切れませんが、中国の台湾への姿勢や南シナ海・東シナ海への進出、北朝鮮のミサイル発射、ロシアのウクライナ侵攻といった危うい国際情勢の中、東アジアでの防衛力強化の必要性が生まれています。安全保障を考える上で、自国の防衛力整備はおろそかにできる状況にはありません。各国の防衛産業費は今後も増加していき、結果多くの日本企業にも利益をもたらします。
 
これらの風は、例えトランプ氏が大統領になっても、よほどの大きな変化が起きない限りは連続。アメリカが日本に対して政治的にも経済的にも不利を与えることはなく継続していくと考えられます。

ヨーロッパで漁夫の利を得る国・ポーランド

このような「漁夫の利」を得ている国は日本だけではありません。その一つに、中欧のポーランドが挙げられます。長引くロシアのウクライナ侵攻により、軍装備品の巨額の援助を行っているアメリカやイギリス、ドイツといった主要国はもちろんですが、ポーランドもウクライナに大きな軍事援助を行っています。

gt20240410_image02.jpg

ポーランドは、西はドイツ、東はウクライナに面し、人口は約3,800万人。

1989年ワレサ氏が率いた「連帯」が旧ソ連圏で最初に民主化を達成し、1999年にはNATOに加盟、2004年にEUに加盟しました。その後GDP成長率はEU加盟以降、EU全体の伸び率を上回り続けています。

ドイツの隣国のため自動車産業に係わる製造業は強く、輸出先はドイツがトップ。そして、今後の「ウクライナ復興」では、ポーランドの戦略的重要性は非常に高く、大きな役割を担うことになります。

またポーランドは、ドイツとフランスとともに「ワイマール三角連合」という枠組みを組んでいます。3月15日の3カ国首脳会談では、ウクライナに供与する武器を世界市場から調達することや、軍需品の生産を強化する必要性で合意しました。ヨーロッパにロシアからの危機感が高まる中、この「ワイマール三角連合」の安全保障協力への期待は高まっています。

このようにポーランドは、ウクライナへの軍事品の供給に大きく貢献、この部分もポーランドの経済活動に大きな利益をもたらしています。

8年ぶりに再開されるEU結束基金

それ以外にもポーランドにとって大きなニュースがあります。

昨年の12月、8年にわたった「法と正義」(PiS)政権が終わり、ドナルド・トゥスク氏が首相に返り咲き、親EU派政権が戻りました。これによりEUが拠出を凍結していた「ポーランド向けEU資金」1363億ユーロ(約22兆4500億円)が再開されることになりました。この多額の基金で、ポーランドは経済・産業インフラの整備など様々な分野への投資が可能になり、今後一層の経済発展が見込まれます。

私たちに馴染みの深いヨーロッパ。ついドイツやフランスなどの主要国ばかりを見てしまい、また経済活動をEUとして一括りに見てしまいがちですが、中欧、まさにこのポーランドなど経済発展を続ける国が存在しています。

これからも大きな変化を遂げる国際情勢の陰には必ず「漁夫の利」を得る国があり、その国は大きな経済的利益を獲る可能性があります。

GLOBAL&TRENDバックナンバー

衰退する「サンフランシスコ」と繁栄の「テキサス」

進む「次期戦闘機」の開発。2035年の配備をめざす「第6世代戦闘機」

進む日本の「デジタル赤字」。インバウンドを打ち消す資金流出

止まらない世界の防衛費の急増。「もしトラ」の現実味

宇宙開発が新たなステージへ!SLIMの成功で加速するアルテミス

一覧に戻る