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宇宙開発が新たなステージへ!SLIMの成功で加速するアルテミス

2024年1月31日掲載

1月29日の午前にうれしいニュースが飛び込んできました。

1月20日の深夜、月面着陸の偉業に成功した無人探査機SLIMの太陽電池が8日間を経て復旧したとのこと。すぐに観測を再開して今後月面の岩石成分の詳細データの取得が期待されます。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が進めている、「月の狙った場所へのピンポイント着陸」「着陸に必要な装置の軽量化」「月の起源を探る」といった目的を小型探査機で月面にて実証する探査計画「SLIM(スリム)」計画。

今回のSLIMの着陸は、旧ソ連、米国、中国、インドに続く5カ国目。特に今回の大きな目標だった着陸目標地点から半径100メートル以内の「ピンポイント着陸」の成功は大きな偉業です。今までの月面着陸(4か国)の着陸時の誤差は数キロ委から十数キロメートルのレベル。月には大気が存在しないので減速が難しいためです。今回の着陸は飛躍的な進歩です。

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「ゴールドラッシュ」ならぬ『ムーンラッシュ』

今後、月の開発を進める上で「水」の確保が最優先の課題。月で各国が探し求めるのは「金」ではなく「水」です。人間の生存に不可欠な水。もし地球から月に運ぶと1リットル約1億円といいます。また、水は水素と酸素に分解してロケット燃料やエネルギー源としての利用が可能。月でロケット燃料を調達できれば、月の基地を拠点として火星など他の惑星へ探査ロケットを送り込むことが可能になり、月面の水を最初に発見する国はそのレースの先頭に立つことになります。そして、水の安定確保が可能になれば2040年代には月面都市の建設が視野にはいります。

水が多く存在する可能性があるという月の南極付近で探査機が着陸にできるのは13カ所と見込まれ、この希少な土地へのピンポイント着陸を各国は競っています。今回のSLIMのピンポイント着陸の成功の価値は非常に大きいものです。

またSLIMの運用が再開されたことで、月の起源の解明につながる成果が期待でき、今後アメリカ主導の国際プロジェクト「アルテミス計画」にも大きく貢献していくでしょう。

1年延期された「アルテミス計画」

その「アルテミス計画」ですが、1月9日アメリカ航空宇宙局(NASA)は、月を周回する有人ミッションを24年11月から25年9月に、また2025年末に予定していた有人月面着陸を2026年9月に延期すると発表しました。有人の宇宙船「オリオン」などの開発が遅れていることが原因のようです。この「アルテミス計画」では、月を周回する拠点の「ゲートウェイ」に日本人も滞在、また日本人宇宙飛行士を月面着陸させる方向で最終調整しており、日本人が月面に降り立つのが現実になります。

そしてこの計画は、月にベースを建設し宇宙飛行士の継続的な滞在を目指しています。それに向け、三菱重工業、トヨタ、ブリヂストン、タカラトミー、清水建設、鹿島建設、ミサワホームなどなど、多くの日本の民間企業も参加を表明しています。

月面探査で日本企業の技術力を発揮

最初のミッションである月面探査、「無人・有人の探査機(ローバー)」の開発にも日本の企業が参加しています。月面の砂は衝突の際に粉々になった隕石の破片と考えられ、小麦粉のように細かいといいます。少しの圧力で砂がしまり探査車の足に絡まり、半世紀前の「アポロ計画」ではたびたび故障を引き起こし作業が止まりました。また月の水は、クレーターの底など、太陽光が差し込まない影になった窪地にある可能性があり、探査車は傾斜20度以上の急斜面を上り下りすることになります。もしも転がり落ちたり砂で故障を起こしたりすれば、開発に投資される巨額の費用が無になります。これらの問題をクリアするため、開発には最新の技術と知見が投入されます。ここにも今回のSLIMの成果が大きく寄与することになるでしょう。

そして今後、月へ多くの資材や調査装置や人間を運ぶことになります。この「宇宙輸送システム」は費用を抑え安定的にロケットを打ち上げる技術が不可欠です。この部分にはアメリカのスペースX社など民間企業への期待が高まっています

日本でも、国は「宇宙戦略基金」を作り、JAXA、民間企業や大学に10年で総額1兆円を支援するとしています。

急拡大する航空宇宙産業のマーケット

また「月」以外でも、IHIエアロスペース社が2月にもロケットとジェットエンジン併用の無人機の飛行実験に再度挑戦するとのことです。昨年は失敗に終わりましたが、宇宙を経由して超高速で飛行する事業を2040年以降の実用化を目指しています。

最後にモルガン・スタンレーによると、宇宙産業マーケットは2040年には1兆ドル(約145兆円)。2017年度の3倍と予測しています。

2040年、未来のことではありません。これから16年後。

iPhoneがデビューしたのが今から17年前。それを考えるとあっという間です。

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