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パレスチナ・ガザ。イスラエルのハマス攻撃の果ての「ワーストシナリオ」

2023年11月22日掲載

イランの存在とテロの可能性

イスラエルのガザへの地上侵攻が始まり、2ヶ月近くなります。11月22日、イスラエルとハマスは人質50人の解放と引き換えに、ガザで続く戦闘を「4日間休止」することに合意したと発表しました。

これまでのイスラエルのガザへの攻撃は想像以上に激しく、1万を超える民間人、多数の子供たちが犠牲になっています。15日の国連安保理で「ガザでの緊急かつ延長された人道的な戦闘の一時休止」の決議がやっとのことでまとまり、その後両者の交渉は難航すると見られていましたが、今回最初の合意がなされました。しかし、この「4日間」の後に停戦に向けて動き出すのか、再度激しい戦いに戻るのか、その行方は予測困難です。

そもそも、この紛争の端緒はパレスチナのイスラム系組織ハマスが10月7日にイスラエルに規模の大きい攻撃を仕掛け、人質を取ったことに対するイスラエルの報復です。これには正当性はありますが、多くのパレスチナ人の犠牲を産み、世界から非難の声が上がっています。

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「人道的見地」からしか介入できない西側諸国のジレンマ

西側諸国は「人道的見地」からのみ停戦(休戦)を訴えイスラエルの自制を求めていますが、強い対応をとることはしていません。

11月8日の東京でのG7外相会議では、共同声明に「戦闘を一時的に止める人道的休止とすべての当事者に国際法の順守を促す」と盛り込みはしましたが、同日にブリンケン国務長官は、「G7はイスラエルの自衛の権利と義務に対する確固たる支持を再確認した」と発言。

アメリカは基本のイスラエル支持の一方で、世界各国や国内に広がる「反イスラエル」の動きに敏感にならざるを得ず、またアラブ諸国の反発を抑えなければならないという難しい舵取りを求めてられます。

またフランスはヨーロッパでユダヤ人が最も多い国で、ドイツ、イギリスも近世の行いから、イスラエルへの直接の非難は難しく、西側各国もバランスをとるのに苦労をしています。

結束するアラブ・イスラム諸国、サウジを訪問した「イラン」の存在

そして中東では、11月11日にサウジアラビア・リヤドの「リッツ・カールトン」で「アラブ連盟+イスラム協力機構(OIC)合同首脳会議」が緊急で開かれています。

この会議には、「アラブ連盟」と「イスラム協力機構」57の国(1つの機構)が集まりました。特筆すべきはイランのライシ大統領がサウジアラビアを訪問、2016年の断交から今年3月に中国の仲介でサウジアラビアとの関係を正常化させたばかりのイランが出席したことです。ここでは共同声明として「ガザでのイスラエルの攻撃、戦争犯罪、残忍で非人道的な大虐殺を非難」「イスラエルがガザへの攻撃を自衛として正当化することに拒否」を表明。サウジアラビアのムハンマド皇太子は「パレスチナ同胞に対する残忍な戦争を非難、断固拒否する」と強調。イランのライシ大統領は「ハマスは抵抗するしか道はない」と激励し参加国に対し「イスラエルとのいかなる政治・経済関係も断つ」ように主張しました。また「西側諸国はウクライナでロシアの民間人殺戮を非難しながらガザでのイスラエルの行為を何故容認するのか」という声が上がったといいます。この会議にはトルコのエルドアン大統領、シリアのアサド大統領も出席。イスラム諸国が団結した図式です。

また20日には、サウジアラビアのファイサル外相をはじめとするアラブ・イスラム諸国の閣僚級外交団が、ガザ情勢を協議するため中国を訪問しています。

ワーストシナリオに備える・「オイルショック」の可能性

この数日、テレビをはじめとした報道でガザの状況を映した映像が少なくなりました。これは国連やメディアのカメラが破壊され、ジャーナリストもガザから退去し現地のリアルな状況を伝えられていないという悲惨な状況も考えられます。またこの紛争の行方や具体的な展望が専門家の口から、またマスコミからも流れてきません。

今後、人道的見地からの休戦が本当に行われ停戦が実現するのか、それとも第三国を巻き込んでの戦争に発展してしまうのか。私たちは常に「ワーストシナリオ」を想定しておくべきです。

今回の紛争が「中東のパラダイム」を変えたことに間違いありません。

この紛争でアラブ・イスラム諸国がパレスチナ支持へ結束し、そこにアメリカと敵対関係にある「イラン」が加わり、アラブ諸国がイスラエルへの非難を強め、もしどこかで導火線の火がつけばアメリカも巻き込んだ衝突が起こる可能性も十分に考えられます。

現に、19日にイエメンの親イラン武装組織フーシが紅海上でイスラエル船を拿捕、「ガザでの犯罪が停止するまでイスラエルへの軍事作戦を続ける」と表明しています。またアメリカは前より、地中海沿岸に空母2隻を待機させイランをけん制しています。

もし、イランとアメリカを巻き込んだ事件が起きれば戦火はペルシャ湾に拡大、日本は「原油」の供給が絶たれ「オイルショック」に見舞われることは確実です。

日本は原油輸入の94%をアラブ・ペルシャ湾岸諸国へ依存しています。アメリカは今や世界一の産油国で大きな影響は受けないでしょうが、日本の被害は大きいものになります。

上向いてきた景気を一機に反転させる可能性があり、このワーストシナリオには十分に留意しなければなりません。この問題は現状のマーケットの流れ・連続性を一機に変えてしまう「大きな要因」です。その時を想定して、打手「プランB」を持ち備えておく、これは非常に重要です。

また、もしこの紛争が停戦にこぎつけられたとしても、パレスチナの人々のイスラエルへの恨みが治まることはないでしょう。大きな力で抑えつけられた怒りは増幅し「テロ」を誘発します。今後各所で「テロ」が起きる可能性は低くないと考えます。ミュンヘンオリンピック事件のように中東以外の国で起こることも考えられます。

根深い「民族と宗教問題」・旧約聖書の時代からの繰り返し

この中東の問題はロシア・ウクライナ問題よりも根が深いものです。民族の問題に宗教問題が重なり、その起源ははるか紀元前の旧約聖書の時代、モーゼの時代にさかのぼります。ユダヤ人は2,000~3,000年にわたって世界で迫害され、ホロコーストの経験もあり、今回のハマスの攻撃に対し安易に引き下がることはないでしょう。

この結果、ヨーロッパでは反ユダヤ主義が広まり、極右ポピュリスト政党の台頭やナショナリズムが高まる可能性もあります。

今ガザで起きている民間人の虐殺だけは何があっても止めなければなりません。そして戦火の拡大も防がなければなりません。そのためには同盟国であってもイスラエルを止めなければなければならないでしょう。この問題は遠い中東の地で起きている対岸の火事ではないことを私たちも心に留める必要があります。

そして、動きを見せない「ロシア、中国」の次の打手を予想することも忘れてはなりません。第三次世界対戦を避けるには、世界の妥協が必要です。

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