GLOBAL&TREND

世界がしのぎを削る「月の開発」

2023年9月19日掲載

相次ぐ「月面着陸」と「月面探査」への挑戦

2023年9月7日、JAXAと三菱重工が開発した「H2Aロケット47号」の打ち上げが成功しました。国産ロケットの打ち上げは、今年3月の次世代大型ロケット「H3」の失敗後初めての成功です。

このH2Aロケットには無人月探査機「SLIM」が搭載され、日本初の無人探査機での月面着陸を目指します。日本の挑戦は今回で3回目。過去2回は、2022年11月JAXAの無人探査機「OMOTENASHI」が着陸を断念、今年4月にはispace社が着陸失敗に終わっています。

無人月探査機「SLIM」は、年末以降に月の周回軌道に到達し2024年初頭に着陸に挑戦。成功すれば米国、旧ソ連、中国、8月のインドに続き世界で5カ国目の月面着陸となります。

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競争激化する月探査

現在、世界各国が月面探査に乗り出しています。米国は月面探査を行う「アルテミス計画」を立ち上げました。中国もロシアと協力して月面基地の建設計画を発表、インドも今年の8月24日に月面への着陸に成功させています。このように、ここ数年で今世界各国が「月探査」にしのぎを削り始めました。

なぜ各国が競うようにして月の探査、月面基地の建設に乗り出したのか。

最近の研究で「月の南極」の地下に大量の氷があることがわかりました。水がなければ地球から運ばなければならず、現地で調達できれば、月での長期間の生存・生活の第一条件がクリアされます。また月面を覆っている「レゴリス」という砂は、ガラスを含有、焼成すると月面での建築資材として活用可能で、月で調達した資源での基地建設が可能になります。このように月面で長期の滞在計画を描けることになったのが第一の要因と考えます。

それに加え、水を水素と酸素に電気分解すればロケット燃料へ活用ができ、地球への帰還や月からの他の惑星の探査が容易になります。そして月には地球ではレアな資源が埋蔵されています。また地球の6分の1という重力を活かした実験や研究の場所としても期待されます。

「アポロ」の双子の兄が動きだします

米国が主導する「アルテミス計画」。「アルテミス」とはギリシア神話の女神で「アポロン」の双子の兄。「アポロ計画」から半世紀ぶりに、米国が月に人類を降り立たすNASA主導の国際協力プロジェクトが始動しています。

概要は、2025年以降に月面に人類を送り、その後、月を周回する宇宙ステーション「ゲートウェイ」を設置、これを通して月に物資を運び月面基地を建設。この基地は月での持続的活動をめざし、資源の探査や有人火星探査の中継拠点にする予定です。NASAは2030年代後半から2040年代初頭に、火星に宇宙飛行士を送ることを目指しており、月面基地は火星や宇宙で人類が活動していく上での様々な課題への対策を実証する実験場になります。

※アルテミス合意(宇宙探査・利用に関する国際ルール)
・2023年6月24日時点での署名済みの国:27か国
米国、アラブ首長国連邦、イギリス、イスラエル、イタリア、インド、ウクライナ、エクアドル、オーストラリア、カナダ、韓国、コロンビア、サウジアラビア、シンガポール、スペイン、チェコ、ナイジェリア、日本、ニュージーランド、バーレーン、ブラジル、フランス、ポーランド、メキシコ、ルーマニア、ルクセンブルク、ルワンダ

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日本企業の挑戦

宇宙分野では、民間企業の参加者は今まで三菱重工業や三菱電機、NECなどに限られていましたが、アルテミス計画では多くの日本企業が参入を表明しています。

月面移動車のトヨタ、ブリヂストン、建設では清水建設や鹿島建設、ミサワホーム、その他AI、ロボット、3Dプリンタなど先進技術ではベンチャー企業の活躍も期待され、その他、月での生活を想定し、商社や食品企業なども参入と分野や社数は多数になっています。

2022年の世界の宇宙分野の市場規模は約56兆円といわれ(Satellite Industry Association・ 2023年6月発表)、モルガン・スタンレーは、2040年には1兆ドル以上に拡大すると予想、巨大なマーケットに成長することは確実です。

しかし、宇宙には高い確率のリスクがあります。失敗や事故の際の損害も大きく、何が起こるか想定が不可能でまさに「未知との遭遇」を許容することが前提になります。

ただ広い宇宙という舞台に、ついに「民間企業」が飛び出すのは事実です。

一方で、月の豊富な鉱物資源を巡る「各国の争い」が始まるのでは、という懸念もあります。月については、天然資源も含めて誰の所有権も認めない「月協定」がありますが、批准国は少ないのが実情。しかし月の鉱物資源を採掘し地球へ運ぶとなると、莫大コストが発生することから、月の資源を地球に持ち込むのは現実的ではないでしょう。

アポロ11号のニール・アームストロング船長が「静かの海」に一歩を記した時から半世紀以上が経ちました。あと数年後、私たちは月に人が降り立つ「鮮明な映像」を眼にすることができます。宇宙への夢が動きだしました。

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