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ピークチャイナは現実か?中国経済の状況

2023年7月14日掲載

ピークチャイナ、最近耳にするようになってきたワードです。「中国経済が成長のピークを過ぎ将来的に成長率が減速する」という意味で使われるものです。

長い期間、高い成長率を維持してきた中国経済。今年に入り減速が明らかになっていますが、本当にピークアウトしてしまうのか、その先行きは?日本はもちろん世界経済に与える影響は多大です。

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回復が遅れている中国の景気

中国は昨年末に、約3年続いた「ゼロコロナ」政策を終了。これをきっかけに消費や生産が持ち直し景気回復が勢いづくと予想されていました。

しかし、中国国家統計局が7月10日に発表した6月の生産者物価指数(PPI)は、前年比5.4%の下落となりました。これは9カ月連続のマイナスになります。(下落率は5月が4.6%、6月の予想は5.0%)また6月の消費者物価指数(CPI)は「前年と同じ」ですが、5月の0.2%から、減速となりました。

また、6月の「サービス部門」購買担当者景気指数は53.9と、5月の57.1から低下。また「製造業」購買担当者景気指数も50.5と、5月の50.9から低下しています。

製造業に関しては、中国は「21世紀の世界の工場」と呼ばれるように、世界的な製造拠点として位置づけられていますが、供給側の指標の4月の生産指数はこの3カ月間で最低水準となり、需要側の指標の新規受注指数も3カ月ぶりに縮小となりました。4月の雇用指数もこの3カ月間の最低となっています。

ゼロコロナ政策の副作用は企業業績を直撃し雇用環境が悪化しており、5月の16~24歳の失業率は20.8%と過去最高となりした。

神話が崩れた不動産市場

これらの原因の1つに、好調だった不動産の低迷があると言われています。中国では、不動産は最も信頼がおける投資先で大きく下がることはないと思われてきました。GDPの30%を占める不動産市場で、マンションの販売が急減速、今後の建設需要の予測も見直されています。15月の不動産への投資は前年同期比-7.2%減、まだ底はついていない状況です。

そして中国では、土地は国有で地方政府がマンション建設をする企業に使用権を売却、その売却収入が税収とともに財源の柱となっています。この不動産の低迷により、地方政府の財政も大変厳しくなっています。

こうした状況をうけ、中国人民銀行は520日に、10カ月ぶりの利下げに踏み切りました。人民銀行は最優遇貸出金利(ローンプライムレート)を実際の政策金利としています。優良企業向けの貸出金利となる1年物金利は年3.55%、住宅ローン金利の指標になる期間5年超金利は年4.20%とともに0.1%下げました。マーケットには追加の利下げを行うという予想もありますが、米国やヨーロッパが利上げしている中、人民元が下落する可能性もあります。

人口動態の変化による成長力低下

「ピークチャイナ」の大きな根拠となっているのは、中国の総人口が2022年に減少に転じたことと考えられます。

2014年まで35年間続いた「一人っ子政策」の影響はとても大きく、今後高齢化が進み、2035年には「60歳以上の人口」が30%以上なるとのことです。

中国政府は対策として、「人口の質」論というものを提唱、これは「教育による人材の高度化で生産性を上げる」というもので、また労働力不足を補うために「定年延長」を進めています。しかし根本的な解決が困難なことは、日本の状況を見ればよくわかります。

一方、EUは6月20日に発表した新たな経済安全保障戦略に、域内企業の先端技術の流出を規制することを盛り込みました。これは中国を念頭に、フォンデアライエン欧州委員長が表現した「デカップリング(分断)ではなくデリスキング(リスク低減)」を具体化したもので「中国との貿易は重視するが、技術の軍事転用を防ぐため、サプライチェーンを中国に依存するリスクを減らしいく」ことです。

経済安全保障上、また人権の問題もあり、中国への生産委託を避ける国、企業も増えています。このような、中国経済への強い逆風は成長率の減速を一層加速、長引けば日本を含むアジアなど周辺国の景気、ひいては世界経済にも大きな影響を及ぼすことは必至です。

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