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今年の夏は猛暑?冷夏?エルニーニョ現象が4年ぶりに発生

2023年6月19日掲載

6月9日気象庁は、南米ペルー沖の海面水温が上昇し、世界的な異常気象を引き起こす「エルニーニョ現象(以下エルニーニョと表記する場合があります)」が発生したとみられると発表しました。2018年の秋以来4年ぶり、夏に発生するのは8年ぶりになります。

南米沿岸の海域では、今年の初めまで海面水温が低下するラニーニャ現象(以下ラニーニャと表記する場合があります)が発生していましたが、時間を置かずに正反対の状況になりました。特に今回のエルニーニョは非常に強い「スーパー・エルニーニョ」になる可能性もあるとのことです。

エルニーニョ:太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて「海面水温が平年より高く」なりその状態が1年程続く現象

ラニーニャ:同じ海域で逆に「海面水温が平年より低い」状態が続く現象

「神の男の子」と「女の子」の入れ替わり

エルニーニョという言葉はスペイン語で「神の男の子」。この現象は貿易風が弱まることによって起こると言われていますが、正確な原因はまだわかっていません。一方でラニーニャはスペイン語の「女の子」という意味。ラニーニャも数年に1度のペースで起こり、過去数十年、エルニーニョとラニーニャが繰り返し観測されています。

通常エルニーニョ現象が起こると、日本付近では夏に太平洋高気圧の張り出しが弱くなり、「気温が低く日照時間が短く降水量が増える」、つまり「冷夏になる」と言われています。

2015年の夏は全国的に曇りや雨が続き、東北の8月の日照時間が例年の5分の1になるなど過去にない冷夏となり、農作物の収穫量が大幅に減少、特に野菜の価格が高騰しました。

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出典:気象庁

「エルニーニョは冷夏」を打ち消す猛暑の可能性

先に書いたよう、エルニーニョが起こると「日本は冷夏」が通常です。しかし気象庁は5月23日の「3か月予報」で下記の発表をしました。

『暖かい空気に覆われやすいため、向こう3か月の気温は沖縄・奄美で高く、東・西日本で平年並か高いでしょう。向こう3か月の降水量は、全国的にほぼ平年並でしょう。』

つまり「3か月予報」では「この夏の気温は高い」と予想しています。

この食い違いの主な理由は何でしょうか。

原因は「ラニーニャが終息してから間もないため、その影響が残る」ことが主とのことで、これほど短期間でラニーニャからエルニーニョに入れ替わるというのが過去に例がないとのことです。

さらに、インド洋熱帯域の海面水温が南東で低く西で高くなる「正のインド洋ダイポールモード現象」の発生も予想され、高気圧が日本側に張り出し、エルニーニョによる冷夏傾向を打ち消し、猛暑をもたらすということです。

またこの夏は、エルニーニョによって太平洋高気圧が東に退く傾向のため、「台風」が日本列島を通りやすくなると予想されています。台風は海面水温の高い海域で発達します。海面水温の高いところを通り発達してから日本列島にやってくるスーパー台風の発生も考えられます。

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図中の文字「H」は高気圧性の、「L」は低気圧性の循環をあらわす。

出典:気象庁

食料問題は世界の今後の最重要課題

エルニーニョが発生すると、東南アジアやオーストラリアで降水量が減少し干ばつや森林火災が起きやすくなります。それだけではなく世界的に気候を大きく変動させ農作物の収穫が減少する傾向があります。エルニーニョが引き起こす世界の食料市場への影響は甚大です。

食料問題は世界の今後の最重要課題です。ロシアのウクライナ侵攻や新型コロナで起きたサプライチェーンの分断という供給不足の問題と、今後のグローバルサウスの人口爆発による需要の急拡大、それらに気候変動の影響が更なる拍車をかけ、世界的な食料不足が発生し、国や地域での争奪が始まることも予想されます。今後いかに食料を安定的に調達・確保していくか、日本でも「食料安全保障」が大きなキーワードになると考えます。

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