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EVの死角、世界の潮流『EV車シフト』の軌道修正の可能性

2023年10月10日掲載

9月20日、英国政府はこれまで「2030年までにガソリン車、ディーゼルエンジン車の販売を禁止」とした期限を「2035年」に延期すると発表しました。

世界は、2015年の「パリ協定」を契機に、多くの国や州が、新車販売に関して「電動車(EV)」の比率を2035年までに100%にする目標を掲げました。この流れの中で英国は「2030年」と早い目標を立てていましたが、他の国・地域と横並びになりました。

一方EUは、今年の3月に「2035年にエンジン車の新車販売をすべて禁止」の方針を変更し、「環境に良い合成燃料を使うエンジン車」は認める方向に転換しました。これはメルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンをかかえるドイツの強い要請によるものでした。

この動きについて日本の経済界からは「EUがリアリティと向き合う決断をした」と歓迎の声も出ています。エンジン車の禁止には、日本が強いHV・ハイブリッド車も当然含まれていますが、今回の方針変更で今後HVやPHVも除外になる一縷の可能性が残りました。

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2035年までの12年間に克服しなければならない「困難な課題」

環境のためにEVシフトは大前提ですが、2035年までの12年間に克服していかなければならない「課題」はいくつかあります。

1つ目は「化石燃料の代わりとなる電気」をいかに賄っていくか?

トヨタの豊田章男会長は、3年前に日本自動車工業会の立場で、「国内のすべての車がEVになると、ピーク時の発電能力を現状より10~15%増強する必要がある。原子力発電で10基、火力発電で20基に相当する」と発言しました。火力発電所の増加は本来の目的と大きく矛盾するので、今後、原子力と再生可能エネルギーによる発電能力を急激に高めなければなりません。

また、2つ目には「充電器の整備」の問題もあります。

そして3つ目の課題として、注目されはじめたのが「バッテリー」と「水」の問題です。

この夏世界各地で、気候変動による大きな被害が続出しました。台風による大雨・洪水、猛暑など気温の上昇、この傾向は年々強まっています。

洪水にあうとバッテリーが発火する可能性も

EVのバッテリーは高電圧電力を格納しています。EVが完全に水につかると、バッテリーが深刻なダメージを受け、徐々に自己発熱を起こし、時限爆弾のようになる可能性もあると言います。特に塩水が浸入した場合は、火災を起こす可能性がとても高く、昨年2022年9月米国フロリダ州のハリケーンによる高潮で、多くの車が海水につかり、その数週間後に10件以上のEV火災が報告されました。海水につかったEVを移動させるロードサービス中に発火した事例もあるとのこと。また今年の夏、中国各地を襲った豪雨で多くの車が洪水に流されました。中国の専門家は「EVバッテリーが水につかると発火する恐れがある」と指摘、「水没したEVは二度とエンジンを点火しないよう」と注意喚起のコメントを発表しています。

EV以外のエンジン車にも言えることですが、車が浸水した場合「エンジンボタンを押さない」はもちろんですが、「HVやEVの車両には触らない」という注意も必要のようです。

EVの火災では、搭載されている数千個のリチウムイオン電池が大きな被害を引き起こします。まずEVのバッテリーパックに火がつくと、10分以内に車全体へ延焼、約15分で隣の車両や建物などにも延焼する可能性が高く、その際に格納されている数千個の電池が、燃えながらロケットのように飛び散るという現象もあるとのことです。また、バッテリーは、皮肉にも「耐水性」を高めるためにプラスチックの内装で覆われており、消火が非常に困難とのことです。

※日産自動車のホームページにも下記の記載があります。
https://faq2.nissan.co.jp/faq/show/13175?site_domain=default
浸水・冠水被害に遭われた場合は、クルマの電気系統のショートによる火災事故や感電事故防止のため、すみやかに販売店で点検を受けてください。とくに、電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HEV)は高電圧システムを搭載していますので、クルマに触らずに、直ちに販売店にご連絡をお願いいたします。

違う選択肢が現れる可能性もゼロではない

世界が進める「EVシフト」。地球の温暖化防止を考えれば「正解」で、時間的猶予はなく、「期限・スケジュール」を立てなければ移行は進みません。そのためにいくつかの困難な課題を克服していかなければなりません。

もちろん世界の技術力を結集すれば、解決はたやすいのかもしれません。しかしプランBの用意も必要です。

2035年までの間に、「EV全面移行」以外に「リアリティのある別の対策」が出現する可能性もあるでしょう。EUが持ち出した「環境に良い合成燃料を使うエンジン車」や「水素燃料車」、もしかしたら9月14日にマツダが発表した「ロータリーエンジン」を発電機として搭載する「PHV」も選択肢の一つかもしれません。

2035年頃アフリカでは、固定電話を飛び越してモバイルがいっきに普及した「リープフロッグ」が起き、EVのみが走り、旧先進国ではEVとともにHVやガソリン車が混在している、という現象が起こっているかもしれません。

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