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衰退する「サンフランシスコ」と繁栄の「テキサス」

2024年3月26日掲載

アメリカ西海岸、サンフランシスコ市内の治安悪化が深刻になっているようです。

ダウンタウン中心地の「ユニオンスクエア」。目の前のウェスティン・セントフランシスを筆頭に周辺に有名ホテルが立地、サンフランシスコ観光の起点として賑わっています。しかしそのすぐ近く、マーケット・ストリートのシンボリックな存在だったデパート「ノードストローム」が昨年に閉店。近辺の通りは空き店舗が増加し多くのホームレスの姿。

サンフランシスコの治安は急激に悪化しています。特にユニオンスクエアのすぐ隣のエリアのテンダーロインは昼でも立ち入るのが危険と言われています。

20年前はIT企業のオフィスワーカーが颯爽と歩き、観光客であふれていたこの街が大きく姿を変えているようです。大きな原因は、市内・近辺のIT・テクノロジー企業がコロナ禍で一気にリモートワークへ移行し、そしてコロナが治まった昨年からも「オフィスワーク」に100%戻ることはなく、「テレワーク」と組み合わせた「ハイブリッド型」をとる企業が多く、街の昼間の人口が大幅に減少。ビジネス街に出店していた小売店や飲食店の撤退などでホームレスが増加、それが観光業にも影響し負のスパイラルに陥っています。昨年のサンフランシスコのオフィス空室率は30%を超え過去最高で、全米の主要都市で最悪となっています。

SalesforceやTwitter(X)やUberなど、成功したスタートアップ企業を産みだしてきたサンフランシスコ。隣のシリコンバレーではGoogleやAppleなどの巨大IT企業があり、この地域の経済を活性化してきました。そして「リモートワーク」に最も積極的で「在宅勤務を可能とする様々なサービス」を産み出したのも彼らです。最先端のワークスタイルを提案・実践してきたIT・テクノロジー企業が、自らの本拠地を衰退させるという皮肉な結果をもたらしています。

サンフランシスコ、地理的には、東の橋を渡ればカリフォルニア大学バークレー校があるバークレーやオークランド。南へ行けばスタンフォード大学があり、パロアルト、サンタクララ、サンノゼに通じます。名門大学で学んだ豊富な人財がHPやOracle、IntelやCisco Systemsといった歴史ある企業を産み、GoogleやAppleが本社を構え、最近ではMeta、Netflixなどの多彩なIT・テクノロジー企業が誕生。シリコンバレーは「世界のテクノロジーの中心地」でした。

しかしここ数年、多くの企業がカリフォルニア州から脱出しています。その主な移転先が「テキサス州」になっています。

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今から3年前の2020年の年末に発表されたOracleとHPE(HPのソフトウエア会社)の2社と、翌年のイーロン・マスク率いるテスラの「テキサスへの移転」が象徴的な事例となりました。

Oracleは、ラリー・エリソンがスタンフォード大学近くのレッドウッドシティに創立して以来カリフォルニアに本社を構えていました。サンフランシスコはまさにお膝元で、Oracleの企業イベント「Oracle Open World」の際は市内のホテルが関係者でほとんど抑えられ宿泊が困難になったほどです。がそのイベントも昨年ラスベガスに移りました。

またHPE(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)。ヒューレット・パッカードは、パロアルトのガレージで誕生した伝説の企業です。このHPの成功が「シリコンバレー」を産み出したともいわれています。HP自体はカリフォルニアに留まるとはいえ、これも大きなインパクトでした。

そして2021年にはテスラが、HPと同じパロアルトからテキサス州オースティンに本社を移転。

他の多くの世界的なテクノロジー企業が「テキサス」に集まってきています。トヨタ北米本社もダラス近郊です。

「テキサス」が企業を集める理由は、企業活動を成功させる次の3つの要素全てが揃っていることにあります。

①「低い税制」
テキサス州の州税と連邦税を合わせた法人税率はアメリカで最も低く、個人所得税も無。

②「安い生活コスト」
安い住宅費や生活費、光熱費。

③「人材確保」
シリコンバレーに比べれば人材コストは低く、多くの優れた大学があり、各分野の人材の確保が可能。

テキサス州の主な大学

2つの州立大学システム(グループ)のそれぞれのシステムの「本校」である「テキサス大学オースティン校」「テキサスA&M大学カレッジステーション校」 は世界的にも有名な研究型総合大学。また「ライス大学」や「ヒューストン大学」「テキサス工科大学」など。

新たなビジネスやスタートアップが生まれる都市には、必ず優れた「大学」が存在します。そこで学んだ人財がイノベーションを起こす。大学に多額の献金がされ優秀な人材が集まる。一種のエコシステムです。スタンフォード大学がシリコンバレーを産んだように、今はテキサス州にテクノロジーの中心が移っているのです。

 

しかし、サンフランシスコもこのままで終わらないようです。

昨年の2月にはテスラが、グローバル・エンジニアリング本部をパロアルトの「ヒューレット・パッカード本社」跡地に設立しました。当時、イーロン・マスク氏は「シリコンバレーを作ったヒューレット・パッカードの本社がテスラに引き継がれるのは詩的なことだ」と語ったそうです。

また彼は昨年の7月、Xに次のように投稿しています。

「Xに本社をサンフランシスコから移転するよう、多額のインセンティブを提供するオファーが多くきている。街からは次々と企業が撤退し、破滅のスパイラルにある。Xにも移転を期待しているが、私たちはしない。誰が本当の友人かいざとなったときにわかる。サンフランシスコ、美しいサンフランシスコ、他が見捨てたとしても私たちはいつも友達だ。」と。

サンフランシスコとシリコンバレー、そしてパロアルトはこれからも「テクノロジー企業の聖地」でい続けるのかも知れません。

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