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アメリカで拡がる「高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)」パンデミックと食料問題への警戒が必要
2024年6月3日掲載
この春、アメリカで、「高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)」の牛への感染が急激に拡大しています。アメリカの保健当局は、3月下旬から現在まで9つの州の酪農場の牛からH5N1を検出したと発表。これは牛での最大規模の集団感染です。
そして、人への感染も3例確認されました。4月のテキサス州、そして5月22日の米ミシガン州の農場労働者への感染が発表され、この2つの感染元は鳥からではなく「乳牛」からとみられています。
ミシガン州での事例では感染した牛と接触後に、主に眼が充血する結膜炎の症状が出る程度で、すでに回復に向かっているということです。この感染原因は、感染した牛の体液や、触った手などが目に触れたこと、搾乳機などと考えられ、『アメリカ疾病対策センター(CDC)』は感染が疑われる牛、または死んでしまった牛にさわる場合には、防護服の着用を勧めています。
H5N1は従来から感染例の報告があるが高い致死率
H5N1は新しいウイルスではありません。最初は1996年、H5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが中国の水鳥から発見。WHO(世界保健機関)によると統計のある2003年から2023年の間に、世界で約900人の人への感染が報告され、その致死率は50%を超えています。2020年以降では、人への感染が中国、アメリカなどの28人。まだ日本での感染事例はありません。
疾病対策センター(CDC)も、人から人へ感染した例は見つかっていなく、牛と接する仕事をする人以外への感染リスクは低いとしています。
しかしH5N1ウイルスの流行は、は今までたまにしか起こらず、感染した家禽類を殺処分すれば収まっていましたが、2021年以降は処分をしてもなかなか収まりません。
ある専門家は、「今回の牛の間での流行で、ウイルス特性に何かしらの変化の可能性がある」として、今後様々な哺乳類でもし感染がみられるようなら人の間での流行の可能性も否定はできないと言います。
アメリカ農務省はこのウイルスの拡大を防ぐために、アメリカ国内に約800万頭いると言われる乳牛が州を越える時には検査を義務付けました。
牛乳から感染の危険性も?
現時点で注意を払うのは、酪農家や、低温殺菌処理をしていない牛乳・乳製品を摂取している人たちです。
アメリカ食品医薬品局(FDA)は4月下旬、市販の牛乳は低温殺菌処理をしているため、また病気の牛から獲れた牛乳は廃棄処分しているため「安全」との声明を発表しています。一方、低温殺菌処理をしていない牛乳で感染する可能性はあり、生の牛乳を飲むことは避けるべきと警告しています。
ワクチンは準備されている
人への2例目の感染報告を受け、5月27日にはアメリカと欧州が「H5N1型鳥インフルエンザ」の人への感染を予防するワクチンの製造や取得について検討を始めた、また大手製薬会社のモデルナとファイザーが「H5N1ワクチン」について、疾病対策センター(CDC) と交渉を始めた、とのニュースも流れています。対象は牛との接触リスクの高い酪農家や獣医師などを想定しているようです。
またこの「H5N1ワクチン」は既に短期間での生産への目途がたっているようです。
WHOにはH5N1ウイルスの各種亜型に対するワクチン候補のリストがあり、テキサス州の感染者から分離された株は、既存のワクチン候補の対象となるH5N1株の2種と近い関係にあると判明しているようです。
心配される食料問題への影響
そしてもう1つ懸念されるのは、H5N1が経済・食料安全保障にすでに影響を及ぼしつつあるということです。
既にいくつかの大手の養鶏施設でもH5N1の集団感染が報告されています。またアメリカの牛の飼育数は約9億2000万頭(2022年・FAO資料)とのこと。万が一殺処分などになれば想像を絶する事態になります。
このウイルスが今後どこまで伝播し、世界中の家畜にどれだけ広がり続けるか、
パンデミックのみならず世界の食料供給にも大きな影響を及ぼします。注視が必要です。
※参考:「鳥インフルエンザA(H5N1)について」
厚生労働省ホームぺージ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144523.html
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