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逼迫する電力、「第7次エネルギー基本計画」と「小型原子炉発電(小型モジュール炉SMR)」
2024年12月9日掲載
現在、電気・電力へのニーズが非常に高まっています。進化が進むAI。世界でAI化が進む中、これを支えるデータセンターが増設され莫大な電力の消費が今後も予想されます。また電気自動車EVへの移行も電力の供給が課題の1つ。環境問題への取り組みも最重要課題です。
年内に策定される「第7次エネルギー基本計画」
こうした中、日本では「第7次エネルギー基本計画」の策定が進んでいます。
この基本計画は、今後の日本のエネルギー政策の方向性を示すもので、3年をめどに見直すことになっており、第6次エネルギー基本計画は2021年策定。そして今回の第7次エネルギー基本計画では次のような目標や施策が盛り込まれる見込みです。
「温室効果ガス削減目標を、2035年以降を目標として策定する」をはじめ、具体的な数値をあげるものとして「再生可能エネルギーや原子力などを2030年に全体の59%まで引上げる」「発電で生じるCO2排出量を2030年に6.8億トンまで抑制する」、また「地熱発電、小水力発電など日本の地理的な特徴を活用したエネルギー源の開発」「原子力発電の再稼働の検討」など前述の数値達成に向けた施策や、その他「エネルギー自給率の向上」「省エネルギーの推進」などが想定されています。
このような流れで、今後、電力源の「再生可能エネルギー」へのシフトは急務で、中でも「浮体式洋上風力」「ペロブスカイト太陽電池の太陽光」「地熱発電」「バイオマス」などの発電方式が注目され、あわせて蓄電池などエネルギー貯蔵設備の重要性も高まります。
原発の欠点をクリアする「小型原子炉発電(小型モジュール炉SMR)」
そしてこれらの「再生可能エネルギー」以外で期待される発電方法が「小型原子炉発電」です。
「小型原子炉発電」とは、小型モジュール炉「SMR」と呼ばれる原子炉が使用するもの。「SMR」は通常の原子炉に比べて1基あたりの出力が約30万キロワット以下(通常は100万キロワット超)と小さいものになります。
この「SMR」のメリットは「シンプルな構造」「原子炉の冷却に水を使わず空気で可能」「安全性が高い」「短期間に設置可能で建設のコストが安い」など、従来の原子炉が抱えていた様々な欠点をクリアしており、大きな期待がかかっています。ある試算では2050年までに、世界の総発電量の5%がこの小型原子炉発電で賄われるとのことです。
この「小型原子炉」を手掛ける企業としては、日立製作所がアメリカGE社との小型原子炉開発の合弁企業をつくっています。ここには欧米からの関心も高く、アメリカの政府機関のテネシー川流域開発公社(TVA)が今年2024年までに許認可準備を進めることを表明。イギリスも導入支援を進め、昨年に選定した候補企業としてこのGE日立も選ばれています。そのイギリスでは日立製作所が大型炉建設を2020年に断念しています。
またグーグルが11月14日に「SMR」を建設する新興企業カイロス・パワーから電力の購入契約を結んだと発表しています。
こうして「小型原子炉発電・小型モジュール炉(SMR)」は、初期コストが抑えられることに大きな期待がもたれていますが、その代わりに「一基あたりの発電量が高くないため稼働後に得られる収益が少ない」という点が主な欠点であり、この「経済性」が今後の展開の大きな壁になりそうです。
昨年アメリカのニュースケール・パワーが、建設費が高騰したためにSMRのアイダホ州での建設を断念。ここには日本から日揮や中部電力などが出資していました。ニュースケール社は、オハイオやペンシルベニアでSMRの計画(2029年に稼働予定)を発表していますが、コストは当初の計画を上回る見込みで、今後、投資家からの目が厳しくなる可能性があります。
しかしCO2を排出せず、安定的な電力供給を得られ、従来の原発の欠点をクリアする「小型原子炉発電・小型モジュール炉(SMR)」は非常に魅力的で、今後のエネルギー源の切り札であることは間違いありません。これから案件が具体的になっていけば「経済性」の改善が進むと考えます。まだ日本ではSMR導入に向けた議論があまり進んでおらず、計画は出てきていませんが、まずは海外の事例で技術を確立、実績が積み上がれば国内での導入も進むものと思われます。
冒頭に書きましたとおり、今後激増が予想される電力消費。そして待ったなしの環境への配慮、この2つの大きな社会課題への取り組みは最重要です。
テクノロジーの変化にインフラの整備が遅れてはなりません。
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