GLOBAL&TREND
「東南アジアに漁夫の利」。急激な経済成長で「第3極」としての存在感を確立?
2024年11月22日掲載
9月からの3か月の間、国内外で大きな動きがありました。自民党総裁選から総選挙、与党の大敗、またアメリカ大統領選でトランプ氏の復活、、私たちの注目は主にこの2つに集まりました。また昨年から続くイスラエルとパレスチナ、ウクライナとロシアの2つの長引く「戦争」に世界は引き続き注視を続けています。そして世界経済は、米国の好景気、苦戦する中国、「漁夫の利」を得て日本の一部の業種も好調に推移。この主要国の動向に隠れて、実は今「東南アジア各国」が好調に推移し、存在感が非常に大きくなってきています。
世界は今、アメリカや先進国が主体の日米欧中心の「自由主義陣営」とロシア・中国が主導し発展を続ける「BRICS」、この2つの陣営に分断が進んでいます。しかし「東南アジア」はどちらとも友好な関係構築を図り、どの国とも取引しサプライチェーンに取り込まれ生産・貿易を伸ばしつづけています。推計では2022年からの10年間で、東南アジアの域外への貿易増加額は1兆2000億ドル(日本円で約180兆円)で、世界でトップとなる見込み。今後「世界の貿易の最大の勝者」になると言われています。
活発になる「BRICS」と接近を図る「東南アジア」
ここ最近、ロシア・中国が率いる「BRICS」の活動が活発となり、東南アジア各国の「BRICS」へのアプローチが目立っています。
去る10月22~24日に開催された「BRICS」首脳会議には36カ国が参加しました。当初のブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国と、年初に加わったUAE、イラン、エチオピア、エジプトの全9つの加盟国に加え、今回から新たに「パートナー国」の創設が決定。その中(13か国)には、インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシアが入っています。
※「パートナー国」として参加予定の13カ国:インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、ベラルーシ、トルコ、アルジェリア、ナイジェリア、ウガンダ、ボリビア、キューバ
東南アジア各国が接近する理由の第一は「経済連携」です。
まずは「インドネシア」。10月20日にプラボウォ新大統領が就任し、早速、「BRICS」首脳会議で今後正式な「加盟国」になる考えを示しました。
インドネシアは20年後の2045年にはGDPで世界第5位となる目標を上げ、プラボウォ大統領は任期中の5年で、現在の年間約5%の成長率を「8%以上」に押し上げると宣言。そのためにも「BRICS」への加盟でグローバルサウス各国との連携を強化していきたい考えです。
また「タイ」はコロナ以降、経済成長率が東南アジアで最低水準となっています。この状況を打破すべく政策面でも経済発展を最重視。この7月には中国BYDが東部に年15万台生産可能な大規模な工場をオープンさせました。その自動車やコメなどの輸出先である「BRICS」へと関係構築で経済の再建を図ろうとしています。
そして「マレーシア」。マレーシアは国民の6割がイスラム教徒。長引くイスラエルのハマスやヒズボラなどとの紛争で、イスラエルへ支援を続けるアメリカへの反発が強く、これも「BRICS」接近の理由の1つになっています。
従来からの日米欧との関係も継続するバランス感覚
このように東南アジア各国は、それぞれの国が抱える様々な事情から「BRICS」に接近しています。しかし彼らは、以前からの「欧米」との関係もしっかりと維持・継続を目指しておりこの絶妙なバランス感覚で「第3極」の位置を築こうとしています。
「マレーシア」には、アメリカの半導体・インテルが拠点を構え、8月にはドイツの半導体大手インフィニオンテクノロジーズの新工場も稼働。世界有数の半導体輸出国となっています。アンワル首相は「マレーシアを最も中立的な場所として提供していく」と宣言し、まさに全方位外交です。
「インドネシア」は、「先進国」への仲間入りを大目標に掲げ、G7との連携を強化しOECD(経済協力開発機構))加盟も正式に申請。TPPへの加盟も目指しています。
トランプ氏の経済政策が「東南アジア」を後押し?
トランプ政権は、発足する2025年に、早速中国への関税の引き上げを図ろうとしています。現在でも、アメリカと中国の対立により東南アジアは「規制の迂回先」となっています。
両国の直接の貿易を避けるために、いったん東南アジアの国を挟んだ貿易が激増。また日本や韓国、ヨーロッパでも中国への依存を避ける「デリスキング」のトレンドから「東南アジア」のサプライチェーンへの組み込みを高めています。
このように現在「東南アジア」は、まさに「漁夫の利」を得て経済を拡大しています。
この流れがこれからも継続していくことができるのか。ロシア・中国主導の「BRICS」は「グローバルサウス」に属する「東南アジア」の取込を益々強化していくと思われます。アメリカを中心とする自由主義陣営も手放すことはできません。
彼らが今後も、双方と距離感を保ち、第3極の立位置を確立して存在感を高めていけるのか、それともどちらかに飲み込まれてしまうのか、もしくは置き去りにされてしまうのか。
これからの東南アジア各国の外交手腕が問われます。
GLOBAL&TRENDバックナンバー
与党大敗の結果を受けた「新たな枠組み」は?「重大局面となる2週間」が始まります
活況の大阪。大型再開発プロジェクトと関西万博、IR統合型リゾートが起爆剤に。