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世界最高峰の「沖縄科学技術大学院大学(OIST)」と「沖縄シリコンビーチ構想」沖縄のポテンシャルが爆発する日

2024年10月3日掲載

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沖縄本島のほぼ中央部の西海岸にある沖縄を代表するリゾート地、恩納村。その海を見渡せる丘の上に「沖縄科学技術大学院大学(OIST)」があります。

緑の中に低層の校舎と住居棟がゆったりと配置され、そのキャンパスはまるでアメリカの大学を思わせます。世界から集まった学生や教職員がキャンパス内のアパートと戸建住宅に居住しながら研究、沖縄の自然を楽しみながら生活する抜群の環境。実際に現地を訪れると、今まで持っていた大学のイメージとは全く違う景色を眼にすることになります。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、2011年に開設された博士課程のみの5年制の大学院。位置付は私立大学ですが所管は内閣府の沖縄振興局、ほぼ全額の予算が国の補助金で賄われています。

創設の経緯は沖縄復帰30周年の2002年に小泉純一郎首相が構想し沖縄振興施策の柱の一つとなりました。2005年に独立行政法人が発足。理事長にはノーベル賞(生理学・医学賞)受賞者のシドニー・ブレナー氏が就任。国際的な教育環境を備え世界トップレベルの研究を進めるべく、ブレナー氏を始め海外の著名科学者を教授に起用し、教職員も広く国内外から採用、授業や研究は全て英語で行われる、約200人の学生のうち日本人は20%弱となっています。

2019年のイギリスの科学誌『ネイチャー』の発行元の調査「世界の研究機関・質の高い論文ランキング(規模で調整したランク)」で、OISTは世界第10位、日本ではトップとなっています。そして2022年にOISTの教授を務める「スバンテ・ペーボ教授」がノーベル生理学・医学賞を受賞。このOISTは国内で突出したレベルの世界最高峰の理系・科学の大学院大学なのです。

沖縄の発展の起爆剤となる知の集積地「OIST」

国が沖縄にOISTを設立した目的に、地元・沖縄の科学技術と経済の発展への貢献があります。

しかし現在の沖縄には、このOISTの卒業生や研究成果が貢献できる産業は少なく、OISTのみならず琉球大学や他校の優秀な人材は県外に流出しているのが実態です。彼らの知識を活かせる産業がないと、せっかくの研究や人材が沖縄に留まらずOIST創設の意義はなくなり目的が達成できなくなります。

これから、沖縄にいかにして産業を作っていくか、新しいイノベーションを産み出し経済を発展させていくかが、OISTや沖縄の自治体・経済界の大きな課題であることは疑う余地はありません。

東アジアの半導体企業の中心に「沖縄シリコンビーチ構想」

この解決策の1つとして注目されているものに「沖縄シリコンビーチ構想」があります。産官学が連携し沖縄に「半導体の関連企業」を誘致、半導体のサプライチェーン、産業基盤を作り経済的発展を目指すものです。内閣府沖縄総合事務局が主導し、昨年2023年11月には半導体関連企業や教育機関の連携を目的とした「シリコンビーチ沖縄フォーラム」も開催され、沖縄が持つ地理的・制度的なメリットを活用、既に企業の誘致が始まっています。

沖縄への半導体産業の誘致の主なメリット・ポテンシャルとして、下記の3つが挙げられます。

1. 台湾など東アジアや九州に近い、地理的な立地
2. 優秀な人材
3. 充実した法制度

特に地理的な部分、世界的な半導体工場が集まる台湾また九州に近く、輸送コストが小さくなることは立地として非常に有利になります。

また沖縄には日本で唯一の「国際物流特区」(那覇地区、うるま・沖縄地区)が存在します。物流インフラの整備が進み、ここの制度を活用すれば<税制上の特例、融資、保税地域の特例>などを受けることが可能です。

既に「国際物流特区」である那覇市やうるま市には、技術系企業やグローバルに展開する企業の進出が進み、半導体関連企業も16社存在しています(2023年現在)。

そして那覇空港と那覇港に近接する「自由貿易地域(旧称)」にある「沖縄グローバルロジスティクスセンター(那覇空港サザンゲートなど)」を使えば、海外からの機器のメンテナンスを行う際、保税状態のまま通関せずに対応が可能になります。

以上のように、「沖縄振興特別措置法・国際物流拠点産業集積地域制度」を利用することで多くの経済活動上のメリットを享受できます。

★「国際物流拠点産業集積地域(沖縄振興特別措置法に基づく経済特区)制度」:東アジアの中心に位置する沖縄の地理的優位性を活かし、高付加価値型のものづくり企業や高機能型物流企業等の国際物流拠点産業の集積を図ることで、沖縄における産業及び貿易を振興し、もって沖縄の自立型経済の構築を目的とするもの。

立地面や制度面に大きな強みを持つ沖縄ですが、電力供給など重要なインフラが未整備という弱点もあり、この「沖縄シリコンビーチ構想」の実現は簡単ではないかもしれません。が、沖縄県や内閣府は産官学の連携を強化、他地域から企業を誘致、半導体のサプライチェーン構築の実現を目指しています。

世界で群を抜く自然環境で国内屈指の観光地の沖縄ですが、観光以外の産業や雇用は不足しており、長い間新たな産業の創出が期待されています。この課題をブレークスルーするのが、「OIST」と「沖縄シリコンビーチ」かもしれません。

地方創生が叫ばれて長いですが、沖縄の自然の中で「ワークタイムバランス」を実現する新しい働き方が沖縄から始まり、日本をリードする先端産業の中心地になる。その日も夢ではないと考えます。

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