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生成AI。急成長するテクノロジーと日本への投資、そして追いつかない「電力」

2024年4月22日掲載

チャットGPTのオープンAI社が、日本に「オープンAIジャパン」を設立することを発表しました。

今、このチャットGPTを筆頭に、日本語に対応した生成AIツールが次々に開発され、日本での生成AIの大規模言語モデルの利用が本格化しています。

オープンAIは日本語の処理能力を従来の3倍に高めた改良版を、NTTのtsuzumiも企業向けサービスの開始を発表。生成AIの衝撃的な技術は大きな波となり、今までのビジネス、ワークスタイル、そして教育など様々な分野にイノベーションを起こしていくのは確実です。

そして、この生成AIに欠かせないのがデータセンターです。4月18日オラクルが1兆2000億円を投資し東京と大阪にデータセンターの新設を発表。4月9日にはマイクロソフトも日本に4400億円を投資しデータセンターの拡充を発表。またクラウドサービスでこの2社と競合しているアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)やグーグルも日本への大規模なデータセンター投資を決めています。以上のように、アメリカのクラウド大手の全てがこぞって日本にデータセンター設立を進めています。この理由は、日本にはマーケットが存在するのはもちろんですが「経済安全保障の重要性」も非常に大きな要因です。

しかしこの生成AIは、大量のハイスペックなコンピュータを使用するため莫大な電力が必要となり、今後利用が進むにつれその量はどんどん膨れ上がると予想されます。特にチャットGPTのような巨大モデルでは、1回の学習に必要な発電量が原子力発電所1基の1時間の発電量に相当するとの試算があるくらいです。テクノロジーの進化とその普及には、この電力の問題が大きな障害となると考えられます。

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急増していく「電力消費」

データセンター。大量のコンピュータを格納するこの「倉庫」では、コンピュータ自体の電力消費と発熱するコンピュータを冷却するために、莫大な電気を使用します。

これから日本で建設が進んだ場合に「急増しいていく電力消費量」に対応する「膨大な量の電力供給」が大きな課題となります。今のペースだと、東京電力のデータセンター向けの電力は2035年ころには最大で現在の12倍と、原子力発電所7基分になると予想されます。

この問題は日本だけではありません。これら「AI、データセンター」以外にも自動車のEVへの一本化もあります。グローバルサウスの発展ももちろんで、これから世界の電力消費量は膨大になる予想です。国際エネルギー機関(IEA)は2026年の世界の電力消費量が2022年の2.3倍に膨らむと試算しています。世界は脱炭素化のエネルギー戦略を提唱していますが、その前提条件自体が変化しており、達成へロードマップに大きな影響を与える可能性があります。

この問題には早急な対応が必要です。まずはいかに電力を増産していくか。

世界には原子力発電からの脱却の流れもあり、日本でも賛否が問われています。

日本政府は2024年度中にエネルギー基本計画を見直す予定とのことですが、2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げておりその計画の策定は簡単ではありません。原子力発電への可否はもちろん、再生エネルギーの安定的な活用のための送電網の整備も急務です。また、中長期的には、新たな発電方式である小型原子力発電、核融合発電の開発を進めることも欠かせないでしょう。

もう1つのテクノロジー・光半導体

前述の電力の増産の他に、この課題へのもう1つの解決策は「消費電力の省電力化」があります。コンピュータのデータ処理に必要な電力自体を小さくすることです。

その1つの新たなテクノロジーとしてNTTの次世代通信基盤「IOWN」があります。IOWNの中核技術として注目されているのは、大幅な消費電力削減につながる「光半導体」の開発です。光半導体は、電子処理を電気から光に置き替える「光電融合」技術を利用、その際の消費電力を100分の1に抑えるといいます。

この光半導体の開発には、インテルや韓国のSKハイニックスといった半導体メーカーと連携・協力。日本政府も約450億円を支援する期待の技術です。またパワー半導体の開発にも大きな期待がかかります。

このようにAIが驚異的なスピードで進化していく中、その燃料となる「電力」と、コンピュータの中核の「半導体」、この両輪の調整が追い付かないと、環境に対して、また他の産業や私たちの生活に大きな支障を及ぼすでしょう。

このエネルギー問題。これは避けられない差し迫った問題です。日本のエネルギー戦略。原子力の可否も含め、先送りをする余裕と時間はありません。

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