GLOBAL&TREND
トランプ政権の「DEI」政策撤回と企業の動向
2025年02月27日掲載
トランプ氏が大統領に就任してから1カ月を過ぎ、署名した大統領令は既に100本を超えました。この数々の大統領令は、アメリカの国内外に大きな影響を与え多くの議論を巻き起こしています。そしてこれらの大統領令の中には、前バイデン政権のリベラルな政策を否定する内容が多く含まれています。
中でも注目されているのは「性別は男性と女性の2つだけ」と宣言、生物学的な男女のみを性別として認めるという公式見解を発表したことです。この方針はバイデン政権の推進した「DEI」政策が目指す多様性の概念を否定するもので、アメリカ社会における価値観の対立を一層深める結果となっています。
企業では、ウォルマートやアマゾン、マクドナルドといった大企業がこの「DEIの取り組みを縮小・廃止」の方向で、これは単なる企業戦略の見直しにとどまらず、社会全体に大きな影響を及ぼすものです。
またトランプ大統領は、軍へのトランスジェンダーの勤務を制限する大統領令にも署名。これは10,000人以上の兵の業務に影響を及ぼす可能性があり議論を呼んでいます。
こういったトランプ大統領の政策は、保守派の支持者に対して強いメッセージを送るものであり、彼の価値観を反映したものといえるでしょう。
「DEI」とは?
「DEI」は、多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包摂性(Inclusion)の3つから成り立っています。これは「社会や職場おいて、異なる背景を持つ人々が公平に扱われ、意見が尊重される環境を作り出すこと」を目指しています。
具体的には、性別、人種、性的指向、障害の有無など、様々な属性の人々が平等に機会を得られるようにする施策です。
バイデン政権下では、このDEI政策が積極的に推進され、企業や公的機関において多様性を重視する方針が取られていました。しかし、現在、この流れによりDEIへの反発が強まっています。
アメリカでは、「保守派」と「リベラル派」の間で社会的な価値観が激しく分断されています。トランプ氏の「MAGA」(Make America Great Again)運動は、前政権が推進したリベラルな政策への拒否感を強く反映しています。このためトランプ氏の支持者はDEI政策を「リベラルな押し付け」と捉え反発する傾向があるようです。
このような価値観の対立は、企業の経営戦略にも影響を与えています。
企業は、消費者の意見や社会的なトレンドを敏感に受け止めなければならないため、このDEI政策を見直すことで保守的な顧客層を取り込もうとする動きが出てきています。
企業の反応
トランプ政権のDEI政策撤回に対する企業の反応は様々です。ウォルマートやアマゾンは、DEIの取り組みを縮小・廃止することを発表。またグーグルもDEI施策を縮小し採用目標を設定しない方針を明らかにしました。金融業界でもゴールドマン・サックスが多様性を求める指針を撤廃するなど反DEIの流れが顕著になっています。
このように企業は訴訟のリスクや政治的な圧力を考慮しながら、DEI施策の見直しを余儀なくされています。このような状況は、企業文化や職場環境に深刻な影響を及ぼすことが懸念されます。
NASA(アメリカ航空宇宙局)の影響
この流れは、企業だけでなく連邦政府全にも影響を及ぼし「NASA」もその影響を受けています。先日NASAは「多様性および機会均等オフィス(ODEO)」を閉鎖しました。この「機会均等オフィス」というのはNASAの組織内の多様性を促進し公平な機会を提供するために設立された部門です。閉鎖の決定により、NASAではマイノリティー支援の取り組みも停止する方針です。先月NASAの長官代理に指名されたペトロ氏は、DEIがアメリカ人を人種で分断し税金を浪費していると述べています。
本来NASAは1961年のアポロ計画始動時、ケネディ大統領がNASAを「人類の進歩を示す組織」と位置づけ、多様性を重視し黒人や女性の科学者を積極的に雇用するよう求めました。それ以来NASAはその方針を堅持し、国際宇宙ステーション(ISS)やアルテミス計画でも女性や黒人、日本人も含めた外国人宇宙飛行士を含む多様なチームが運営に関わっています。
今回の決定は、今後のアメリカの宇宙計画に大きな影響を与える可能性があります。
日本企業への影響
一方、日本の企業でも10年ほど前から(当時はDEIという言葉はありませんでしたが)多様性への関心が高まり、具体的な施策が導入されるようになりました。
2015年には「女性活躍推進法」が施行。企業に対して女性の活躍を促進するための行動計画を策定することを求めました。また2020年には「障害者雇用促進法」が改正され、障害者の雇用促進に向けた取り組みが強化されました。
こうした社会や意識の変化、グローバル化の流れから、国内でも多くの企業が、アメリカから半歩遅れて、DEIを実現するべく具体的な施策を導入するようになっていました。
その矢先のアメリカでの反DEIへの転換。この動きには日本企業も無関係ではいられず、今後方針を見直す企業が出てくる可能性もあります。
しかし日本とアメリカでは労働市場の状況が異なり、労働人口の減少が続いていく日本では多様な人材を受け入れる環境を整えることは企業の成長にとって不可欠です。またグローバルな競争が激化する中、DEIを否定することは競争力を失うことになりかねません。
トランプ氏の大統領就任から1か月あまり、この「DEI」撤回に代表されるように、これまで「世界が協調して作り上げてきた秩序」をトランプ氏は次々と変更しようとしています。
間髪置かずに繰り出される様々な政策に、アメリカ国内はもちろん世界が振り回され「踊らされている」のが実情です。
トランプ氏から「ダンス」に誘われれば、誰も踊ることを断れません。
この「ダンスパーティ」はいつまで続くのか、踊り疲れるのを待つしかないのかもしれません。
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