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「生成AI」を巡る熱狂と「AIバブル論」、今後の行方

2025年12月15日掲載

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 「生成AI」の進化が急速に進む中、日本企業でも「生成AI」「AIエージェント」の導入が急速に広がっています。昨年から今年にかけて、社内のヘルプデスク、営業資料の自動作成、コールセンターでの顧客応対、さらにはシステムの運用管理に至るまで「AIエージェント」が人に代ってタスクを遂行する事例が増加しています。大企業では全社的な導入が相次ぎ、中堅企業でも「AIを活用した生産性向上」が経営課題の上位に入ってきています。
 「生成AI」は単に文章や画像を生成するツールにとどまらず、情報収集から分析、意思決定のサポート、業務の自動化まで、人を介すことなく可能にしています。
例えば、営業現場では、AIが顧客情報を分析し、成約の可能性を算出し最適なアプローチ方法を提案、採用現場では、求人票を自動生成から、面接官向けに質問リストを作成するなど「業務の効率化」の可能にしています。
 
こうした「生成AI」の浸透は、30年前に始まった「インターネット」の普及よりも速いスピードで広がっています。理由は明確で企業側にとって「生成AI」の導入は、分かりやすい「コスト削減効果」をもたらすからです。人材不足が深刻化する現在、AIが「人」の作業に代る効果は極めて大きく、事業継続のために不可欠な投資になりつつあります。もはや「AIを使うべきかどうか」を議論する段階は過ぎ「どう活用して競争力を向上するか」が主流になっています。

世界市場で進む「熱狂と揺り戻し」――NVIDIAの世界一とAIバブル論

 そして、今、世界の株式マーケットでは「生成AI」をめぐる熱狂と調整が同時に進んでいます。NVIDIAはGPUの寡占状態を背景に急激な成長を遂げ、一時は時価総額で世界一に立ちました。クラウド事業者はNVIDIAのH100/H200などのGPUを大量発注し、データセンター投資が加速しています。OpenAI 、Microsoft、Google、Meta、そしてOracle、Amazon、さらにはイーロン・マスク氏のxAIまで、Bigテック企業がこぞってAIインフラに巨額の投資をしています。
 しかし、ここに来て市場は過熱感を警戒し始めています。先週12月上旬のOracleの株価急落はその最たる例で、AI需要を過大評価しているのではという懸念が浮上しました。GoogleもGeminiの改善と強化を急ピッチで進め、OpenAIの一強状態から多極化のフェーズへ移りつつあります。市場はAIの将来性を評価しつつも「どこまでが現実的な成長なのか」「いつか需要がピークを打つのではないか」という懸念が出始めています。
 日本でもソフトバンクGの株価が急落するなど、AI投資に対する不安が出始めています。マーケットでは「AIバブルではないか」という声が増え、一部では2000年代初頭のインターネットバブルを連想する意見も出ています。

「生成AI」はバブルなのか?

「インターネットバブル」。1998年くらいから「ネット革命」という期待が先行し多くの企業が急成長を遂げた後、2000年代初めに、現実的な収益化の壁にぶつかり、バブルとなり崩壊、世界のマーケットに大きな影響を及ぼしまた。

 では、この現在の「生成AI」関連企業への相次ぐ投資はバブルなのでしょうか。この問いに対して意見が分かれています。ソフトバンクGの孫正義社長は「AIエージェント」のマーケット規模は極めて大きく「人類史上最大の革命」という表現すら用い、AIが生活と社会の基盤になると語っています。

 「生成AI」と「インターネット」には決定的な違いがあります。それは 生成AIは「企業や社会の構造を変える技術」という点です。
インターネットは情報収集や活用の利便性を飛躍的に高めましたが、企業や組織に直接的な多くの労働代替を生み出したわけではありませんでした。一方、生成AIは、生産現場・工場や倉庫、建設現場で動くロボットと同様に、企業のホワイトカラーが行ってきた定型業務やクリエーティブな仕事の一部を代替し、企業の人員構成そのものを変えてしまう可能性を持っています。また今注目されている「フィジカルAI」は前述の産業用ロボットを更に発達させ、複雑な仕事の代替が可能になります。

 今後、労働人口が減少し人件費が上昇する国、特に日本では、AIによる「人」からの業務代替の価値は極めて大きいと考えます。これは「使うと便利になるツール」ではなく、経営に関わる変革であり「使わなければ競争力を失う」ことになります。
つまり、「生成AI」は単なるブームではなく「産業構造の根本を変える技術」であるという点で18世紀末の「産業革命」にも匹敵するパラダイムシフトを起こしていると考えますす。

GPUのコモディティ化は避けられないが、市場は縮小しない

――NVIDIA以後のAI産業
生成AIを支える高機能半導体GPUのほとんどを賄うNVIDIA。この企業の4半期ごとの決算発表は世界のマーケットに多大な影響を与えています。しかし、NVIDIAの独占的な市場構造が永続するとも思えません。おそらくGPUも今後コモディティ化が進み価格は下がり、競争も激化するでしょう。AMD、Intelや中国企業などが追随し、クラウド事業者が自社開発のAIチップを増やす可能性もあります。
 しかし、GPUがコモディティ化したとしても、AI市場そのものが萎縮することを意味しません。むしろ普及フェーズに入るにつれ、AIインフラへの投資は拡大し続けると見られています。インターネットの例を見ても、通信回線やサーバーが安価になったことで市場は爆発的に拡大しました。同じことがこの分野にも起こる可能性が高いのです。
 つまり、短期的にはマーケットで株価が乱高下し、供給過剰や競争激化が言われる期間はあっても、AI需要は加速度的に拡大続けるのは間違いありません。利用領域は増え続けていくでしょう。

本質を見て議論することが重要

 「生成AI」をめぐる熱狂と、それへの疑念、この議論は今後も続いていくでしょう。この時、短期的は思惑やメディアの一部の情報だけで判断をしてしまうと「本質」を見失う危険があります。
 「生成AI」は、産業構造や働き方や生活、そして社会通念までも大きく変える力を持つテクノロジーです。同時に課題や不確実性も多いのも事実です。  
だからこそ、必要なのは「生成AIの本質」を冷静に見極め、長期的な視点で議論を深めることが重要です。
 「生成AI」の可能性はまだ始まったばかりで、それがゴールを迎えるには相当の時間がかかります。変化は続いていきます。その中で私たちは冷静に「生成AIの本質」を捉えていくことが求められていると感じます。

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