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可能性高まる「富士山噴火」 そのリスクと対策シナリオの重要性

2025年9月4日掲載

外国人からも絶大な人気の日本の象徴・富士山。しかしその富士山が「活火山」であることを私たちは忘れがちです。富士山の最後の大噴火は1707年元禄時代の「宝永噴火」で、それから300年以上の時が経っています。

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富士山は、記録では平安時代の800年から1083年までの間に12回噴火し、その後1083年から1511年までの約400年間は噴火の記録がありませんが、時間的にいつ噴火してもおかしくありません。また2011年の東日本大震災によって富士山直下のマグマ圧力が上昇しているという説もあります。

「宝永噴火」は、年末の12月16日から大晦日の31日までの2週間も続き、また噴火の7週間前の10月28日には南海トラフを震源にした<マグニチュード8.6 - 9クラス>の日本最大級とされる宝永地震が起こっています。
南海トラフ地震と富士山噴火。もしこの2つの大災害が同時に起こったら、日本の社会、経済に与える被害は膨大、想像するだけでも恐ろしいですがその可能性もゼロではありません。

東京都が8月にシミュレーション動画を公開

この8月、東京都が富士山噴火を想定したAI生成のシミュレーション動画を公開しました。映像に映し出されたのは、噴火からわずか数時間で東京が火山灰に覆われ光景が一変。普段は賑わう新宿のビル群が、真っ白な灰に沈む姿は悪夢のようでした。

火山灰はただの「砂」ではありません。粒は鋭利で吸い込むと呼吸器に害を与え、また電力や通信を遮断し、水道・下水を機能不全に陥らせる凶器になります。動画ではその現実を映し出し、私たちに「備えることが唯一の防御」と訴えてきます。

シミュレーションでは、首都圏は数時間で数センチの降灰に覆われ、もし5センチ積もれば、電車やバスは動かず、空港も閉鎖されます。物流トラックは灰で覆われた道路を走ることができず、食料や医薬品は届かなくなります。
通信網も無傷ではありません。火山灰による断線で基地局が止まれば、携帯電話もインターネットも使えなくなります。SNSで安否を確かめ合うことすらできなくなります。これによる経済的損失は2.5兆円に達するとの試算もありますが、その金額では測れない「社会・日常の崩壊」が現実になります。

企業ビジネスに与える影響

企業活動も大打撃を受けます。テレワークの仕組みが整っていても、通信が途絶えれば機能しません。物流が停止し製造業では部品が入らず工場は止まります。金融機関も決済機能が停止。外国人の来日も止まるでしょう
これらの危機を乗り越えられるかどうかは、企業が平時からどれだけ真剣に事業継続計画(BCP)に取り組んでいるかにかかっています。

また噴火の恐ろしさは、火山灰による被害が長く尾を引くことです。数センチの灰を取り除くだけでも膨大な人員と時間が必要です。道路や鉄道の再開は数か月から数年単位となり、完全復興までは5年以上かかるとの試算もあります。その間経済は停滞し私たちの生活も大きく変わらざるを得ません。

企業が今から備えておくべき対策とシナリオ

以上のように、社会・経済、企業活動にも大打撃を与える「富士山噴火」。いつ起こるかはわかりませんが、重要なのは「想定」と「対策シナリオ策定」です。今から企業が取り組むべき備えとしては、下記が挙げられます。

・代替拠点の確保:首都圏以外に業務を移せる場所を準備する。
・データの多重バックアップ:国内外に分散し、万一の停電にも備える。
・調達・物流の多重化:一つのルートに依存しない供給網をつくる。
・社員の安否確認システム:通信障害時にも機能する仕組みを構築する。
・柔軟な勤務体制:在宅勤務やサテライトオフィスを平時から活用する。

これらの対策は、噴火だけでなく地震や台風などあらゆるリスクに共通する"守り"となります。

自然災害はいつどこで起こるか予測は困難です。それらはいつも「忘れたころ」に襲いかかります。そのためには、常に「想定し準備をしておく」、そしてそれによって起こる様々な場面のシミュレーションをしておく──その積み重ねだけが被害を少なくする手段です。

富士山の美しい姿からは想像しにくいですが、火山は噴火を繰り返すもの、次に対して準備を忘れてはなりません。

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