GLOBAL&TREND
頻発する対立、注目される日本のポジション
2025年6月17日掲載
6月に入り、また世界が目まぐるしく動き始めています。
世界の枠組みを力で変えようとするニュースが次々と飛び込んできて「情報過多」ともいえる状況になっています。今、世界で起きている事案は決して軽微でなくそれぞれが「別々」に起きているように見えますが、根底では太いロープで繋がっているのかもしれません。
アジア核保有国の緊張
5月初旬にインドとパキスタンの間で軍事衝突が発生しました。両国とも核保有国で、パキスタンは中国の軍事支援を受けています。この衝突は勃発から4日後、突然トランプ氏の仲介で停戦となりましたが、火種は常に残っています。パキスタンは6月になると中国から戦闘機供与の契約を結ぶなど、戦力の増強を図っています。次の衝突がいつ起こってもおかしくありません。
そして、先週末、ついにイスラエルがイランへの大規模攻撃を開始しました。イランの核を巡る協議をアメリカと始めている最中に、ネタニヤフ首相は核開発施設の壊滅、軍トップや研究者の殺害など、周到な準備のもとイランに大きな損害を与えました。またイラン国民に現体制の転覆を促すなど、収束の見通しは立ちません。
アメリカは、イスラエルの防衛への協力はするが攻撃への参加は控えると声明を出しています。しかし、万が一アメリカの施設が攻撃を受けた際には参戦の可能性はあります。
周辺国では、イランの協力勢力だったハマスとヒズボラは無力化しましたが、イエメンはイスラエルを攻撃、今後サウジアラビアを中心とした中東諸国の動きも注視が必要です。
イランは連日ミサイルで反撃し、確かな情報はわかりませんが、イスラエルが誇る「アイアンドーム」が崩壊した、との情報も飛び交っています。これが事実だと、日本のイージス艦のSM-3やパトリオット(PAC-3)による防空システムは、全く役に立たないことが証明されたことになります。テルアビブに超音速ミサイルが着弾する動画は、ネットの中の出来事ではなく、来月の日本でも起こりえることです。
経済への影響も大きく、原油価格は80ドル台の可能性もあり、ホルムズ海峡の封鎖もゼロではありません。
増している中国軍の脅威
6月7日に中国空母2隻「遼寧」「山東」が「第二列島線」を初めて越え太平洋に入りました。台湾有事を想定したアメリカ空母への軍事訓練とのことです。「第二列島線」とは、伊豆諸島、小笠原諸島、グアムなどを結ぶ日米の安全保障上の重要な防衛ラインです。
その際、7日と8日の2回、太平洋の上空で警戒監視を行っていた海上自衛隊・P3C哨戒機が、中国軍「J15戦闘機」から追尾され、約45メートルの至近距離まで接近される事件が起きていました。この「J15戦闘機」は空母「山東」の艦載機です。中国の危険な挑発には怒りを憶えますが、今回の事件で中国の空母が太平洋に進出し、そこから発進した戦闘機により本州への攻撃が可能になる、ということが明らかになりました。中国は着々と準備を進めています。
一方、同じ6月7日には、ロシアがウクライナの第2の都市ハルキウに大規模なミサイルとドローンによる過去最大の攻撃を行いました。停戦どころか収束は見通せず、プーチン氏はウクライナの一方的な譲歩まで戦いを続けるようです。
トランプ氏の国内での動き
アメリカではトランプ氏の移民政策に反対するデモが頻発し、特にロサンゼルスでは抗議デモが暴徒化。トランプ氏は、カリフォルニア州知事の反対を押し切り州兵、そして海兵隊に出動を命じました。また14日のトランプ氏の79才の誕生日には、ワシントンで陸軍創設250年軍事パレードが行われ、最新鋭の装備である戦車エイブラムスや歩兵戦闘車ブラッドレー、装甲車ストライカーなどと7,000人の兵士が行進し、アメリカの軍事力を世界に見せつけました。
以上のように世界中で対立する国家間でけん制を超えて衝突が起こる中、6月15日から17日にG7サミットがカナダで開催されました。数年前まで世界の秩序を支えていた自由主義陣営の先進国の首脳が集まります。この場で、これらの衝突の解決案がまとまる可能性は低くトランプ関税回避への個別交渉で終始すると思われます。
一気に起こり始めた世界の対立と、それを力によって一方的終わらせようという試み。これらのきっかけは、長く続いた「新自由主義」の終焉にあるかと考えます。
グローバルサウス各国の台頭や、先進諸国での移民の問題、協調を目指した結果の自国の景気減速など、様々な課題が溜まり容量をこえてしまう。そんな中、トランプ氏のアメリカ自国第一主義が登場し、プーチン氏、習近平氏、そしてネタニヤフ氏などのナショナリズムの強い指導者が台頭。協調主義的国家の存在感が小さくなっています。
日本とヨーロッパ各国との連携
ここでいう協調主義的国家の代表は日本とEU各国です。折しも、「日本とEUが本格的な防衛産業協力に乗り出す」という記事が発信されました。16日にパリで初会合を開き、防衛産業分野の連携について話し合い、アメリカ依存からの脱却といった共通の課題の解決を図るとのことです。この取り組みのように、世界が混乱する中でも、日本とヨーロッパは「経済・産業分野」でしっかりと協調して世界をリードしていく役割を果たすべきです。もちろん景気は世界経済の影響を受けますが、その中でも「自国の強み」を活かした経済活動を行う国が結果的に「漁夫の利」を得ることになります。政治外交面でも同様です。
イスラエルとイランの仲介役をプーチン氏が買って出る、との報道もありますが、これはブラックジョークになります。今回日本はG7諸国の中で、最も強くイスラエルを非難しました。ここでも日本が力を発揮していくべきです。
世界が混乱していく中、日本のポジションが注目されています。
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