GLOBAL&TREND

「インフレは終わらない」、その構造的な背景

2025年12月12日掲載

今年の春から顕著になってきた食料品の価格上昇。輸入に頼る様々な製品やそれらを材料として使用する各種サービスなど、生活に関わるあらゆる「モノ」の価格が上昇しています。長い間、日本を覆ってた「デフレ」が終わり、全ての価格が上昇する「インフレ」が、世界に遅れて日本にも降りかかってきています。

インフレ.jpg

このインフレを抑え込む常套手段は、政府・日銀のよる金融引き締め(利上げ、通貨供給量減)や財政支出の抑制です。今後これらの対策がとられていくと思いますが、今回のインフレは一過性では終わらなく、「構造」として長期に続く可能性が高いと考えられます。

人口減少という"確定済み"の事実

まず、日本では長中期で人口減少が確定しており、今後数十年、人口構造が大きく変化する見込みです。総務省や厚労省の推計によれば、現在約1億2600万人の日本の人口は緩いですが加速して減少していき、2070年にはおよそ8,700〜9,000万人台に落ち込む可能性があるとされています。また65 歳以上高齢者の割合も上がり続け、2060年代には高齢化率が 38%に達すると見られています
今の出生率の低下は「20年後の労働人口」に直接影響します。「労働人口」が減少、「内需」は縮小、国全体の潜在成長力が低くなるのは明らかです。そして、生産性の向上が進まないと供給が不足し需要サイドの価格が下がりにくくなる、結果として、インフレが収束しづらい構造ができあがります。
そして「労働人口減少」がもたらす大きな影響一つとして「賃金上昇」があります。企業ではすでに人材が不足してきており、優秀な人材ばかりでなく、採用数を確保するために新卒の初任給引き上げが盛んに行われています。この「賃金上昇」が当然、価格に転嫁されインフレを後押しします。この採用競争は激化していき、この流れはこれから数十年間継続されるでしょう。

エネルギーおよび貿易・サービス収支構造の歪み

また日本の資源構造とそれによる貿易収支の悪化が、インフレを押し上げ続ける要因となっています。日本はエネルギー資源を国内でほとんどまかなえず、石油・天然ガス・石炭といった火力エネルギー源を輸入に頼らざるを得ません。実際、最近ではこれらの輸入価格の高騰や円安の影響で輸入額が大きく膨らみ、その結果2022年には通関ベースで過去最大の貿易赤字となりました。その傾向は改善しつつありますが、今年は米国の関税政策の影響もあり赤字の状態は続いています。
この貿易赤字が続くと「円を売って外貨を買う」ことが増えるため円安圧力が高まり、その円安が輸入価格を押し上げ、さらに輸入増・赤字拡大を招くという「円安の罠」という悪循環を招きます。当然、輸入コストは上昇し、原材料やエネルギー価格を押し上げ、消費者物価にも転嫁されていきます。
(これを解決する手段の1つに、化石燃料に頼らない「原子力発電」の再開があります。東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働は解決への一つのきっかけとなるでしょう。)

さらに、最近では「デジタル赤字」という新しい要因が注目されています。海外からのコンテンツや海外のクラウドサービスの利用拡大による「サービスやデジタルの輸入超過」が急激に拡大、これが日本全体の国際収支の悪化につながっています。Netflixなどの外資系ネット配信の人気もこの1つの原因になっています。今年、2025年上半のデジタル関連収支の赤字は3兆4,810億円になっています。

このような貿易の構造的な赤字は、短期間に改善できるものではありません。仮に為替レートが変動し、輸入品の価格が一時的に下がったとしても、根本的な収支構造や依存体質を変えなければ再びコスト高や物価上昇リスクに晒される可能性が高いのです。

インバウンド黒字の「切り札」も、まだ不確実

以上のような貿易赤字を減らす項目の1つに「観光(インバウンド)収入」があります。海外からの観光客の消費、サービス需要の増加は、日本にとって「輸出」同様の効果をもたらし収支全体のバランス改善に大きく寄与しています。コロナ収束以降、外国人入国者数は増加し、今年2025年の国内でのインバウンド消費は10兆円に迫る勢い。政府は2030年の目標を2025年の1.5倍となる6000万人としています。
ただし、これには不確定な要素があります。国際情勢や近隣諸国との関係、世界経済の動向などによって訪日客の動向が大きく左右されるからです。現に、先月から急激に悪化した日中関係により、中国からのインバウンドは激減。今後の見通しは立ちません。

為替・金融政策では根本対処にはならない

「円高になれば輸入コストが下がりインフレも収まる」、こうした見方もあるでしょう。もしくは、金融政策で金利を調整し為替やマネーの流れをコントロールできる可能性もあるかもしれません。しかし現在の日本の課題は、為替や金融政策だけで解決できる性質のものではありません。先に述べたような人口構造の変化や、資源依存・輸入依存の構造自体が問題だからです。

資産運用の時代へ――株高の基調へ

インフレは「お金の価値が下がる」ことなので、私たちが自己防衛をしていくには、自身の資産を預貯金だけでなく、インフレに強いジャンルに移行させることが有効になります。
こうした構造的インフレの持続を前提とすると、資産運用の意義はこれまで以上に高まります。「株式、不動産」などが注目され、株高基調が当面続く可能性があります。

私たちがこうした変化の中で生き残るためには、「現在のインフレは一過性ではない」という事実を認識し、この変化を「経済の失敗」などと片付けるのではなく、「新しい時代の始まり」と捉えることが、重要と考えます。

GLOBAL&TRENDバックナンバー

トランプを支える「2人のスティーブン」スティーブン・ミラーとスティーブン・ミラン

『デジタル・リバタリアン』が揺るがすアメリカ ピーター・ティール氏の影響力

可能性高まる「富士山噴火」 そのリスクと対策シナリオの重要性

聞けない『夏の終わり』というフレーズと『セミの声』<猛暑2025>の背景と要因

頻発する対立、注目される日本のポジション

ライン登録