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トランプを支える「2人のスティーブン」スティーブン・ミラーとスティーブン・ミラン

2025年10月01日掲載

混同しがちですが、トランプ政権の重要人物として、2人の「スティーブン(Stephen)」が存在します。スティーブン・ミラー(Stephen Miller)とスティーブン・ミラン(Stephen Miran)です。

両者はまったく異なる経歴と専門分野を持ち、ともにドナルド・トランプ氏の政権を支え、アメリカの政策決定に大きな影響を与えています。

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トランプ氏との関係・政権での役割

まず「スティーブン・ミラー氏」ですが、彼はトランプ氏の前政権時から度々マスコミに登場。現政権では、政策担当の首席補佐官代理・兼・国土安全保障担当補佐官に指名されています。

現在40才で「トランプの頭脳」ともいわれ、第1次トランプ政権で若くして大統領上級顧問、スピーチライターを務めています。

ホワイトハウスで「アメリカ第一」のMAGA思想を主導する中心で、保守的な政策の推進に深く関与。ま移民制限や国境警備強化に関する数々の政策を立案、「移民政策」の立案者として知られ「アメリカ第一」路線を象徴する存在です。

一方の「スティーブン・ミラン氏」は経済政策と金融政策の分野で注目集めています。

ウォール街や学術分野でのキャリアを経て、トランプ政権下で財務省のシニアアドバイザーを務めた後、大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長、そしてこの8月末にトランプ氏の肝いりで、20261月までという限定ですが、連邦準備制度理事会(FRB)の理事に就任しました。

FRB17日のFOMCで市場の予想通り、0.25%の利下げを決めましたが、ミラン氏は0.5%を主張し「年内に主要政策金利がさらに引き下げられるべきだ」と発言しています。

彼が利下げを支持する主な根拠は次の三点です。

第一は、 雇用を最優先。高い政策金利には景気や雇用を悪化させるリスクがあるとし、それらを未然に防ぐためにより迅速な利下げが必要だと主張。

第二に、「関税政策」や「移民政策のよる人件費の高騰」などが物価や需給に与える影響を考えると「中立金利は過去より低い水準で均衡する」という見方を示し、低めの政策金利が適当と主張。

第三は「トランプ関税」が直ちに大幅なインフレ圧力にはならない、という認識です。

経歴や人物

「スティーブン・ミラー氏」は、19858月生まれのカリフォルニア州サンタモニカの中流家庭の出身。デューク大学で政治学を専攻しました。卒業後に共和党議員の補佐官を経て、2016年にトランプ氏の大統領選挙運動に参加。

学生時代から政治的主張を持ち強硬な発言で注目を集めていたといいます。対話よりも対立を選ぶ姿勢でトランプ氏には「闘う助言者」として評価されました。

ピーター・ティール氏といった「デジタルリバタリアン」(テクノロジー業界の自由主義者)とも近く、政策観は「国家よりも市場の効率性や個人の選択」を重んじるリバタリアン色が強く、こうした彼の思想はアメリカの政策に新しい緊張関係をもたらしています。

「スティーブン・ミラン氏」は、19836月生まれのニューヨーク州出身。ボストン大学で経済学・哲学・数学を学び、ハーバード大学で経済学博士号を取得したエリートです。その後いくつかの投資運用会社で金融市場の経験を積み重ね、経済学の専門知識と実務の両面を持ち合わせたプロフェッショナルとして、トランプ政権の金融経済の政策決定に携わるようになりました。人柄は攻撃的ではなく理知的で数字や理論に基づく冷静な議論を行うタイプと言われています。

そして、ミラン氏が202411月に発表した1つの論文がトランプ政権の関税政策に大きな影響を与えています。

その内容・主張は「基軸通貨国は通貨が割高になりやすく国内産業の衰退を招く」という問題意識に基づいています。多くの貿易がドル建てで契約されるためドルへの需要が高まりドル高になる。結果アメリカの貿易赤字・経常赤字が拡大しアメリカの競争力の低下を招いている、その1つの解決策として「関税策」を唱えました。

ミラン氏はこの「関税策」をとれば、アメリカの貿易赤字が縮小する反面、中期的には為替市場で「ドル高」となり、それを避けるには「ドル安政策」が必須と唱えます。

またアメリカの持つ「強大な軍事力」もカードに使うことを主張しています。ミラン氏は20252月の連邦議会上院の公聴会で「高関税による貿易赤字の縮小と防衛産業の強化を進める構想」を発表。経済成長と国家安全保障が一体であると強調しました。

今後の米国と世界に与える脅威

この「2人のスティーブン」に共通しているのは、今までの秩序や常識を揺るがす可能性を持つことです。

ミラー氏の移民制限などの排外的な政策は、国際社会との摩擦を高め、国内では分断を拡大するリスクがあります。

また、ミラン氏の関税やドル安政策は世界に脅威を与え混乱を招き、そして積極的な利下げ論は景気を刺激する可能性を持ちながらもインフレの再燃や金融市場の不安定化を引き起こすリスクを抱えています。

この「2人のスティーブン」 は異なる分野でありながら、いずれもトランプ氏を支え、アメリカの今後に大きな影響を与えています。ミラー氏はナショナリズムとMAGA思想を、ミラン氏は金融政策を通じてそれぞれの目標を達成すべくまい進しています。

彼ら2人の動向を注視することは、今後のアメリカと世界秩序を理解するうえで欠かせないと考えます。

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