GLOBAL&TREND

急増するデータセンター、逼迫する電力。電力各社の施策と課題

2025年7月4日掲載

gt20250704_image01.jpg

7月2日の日経新聞に「送電網増強に大型投資 関電1500億円、東電2000億円データセンター需要急増」の記事がUPされました。

日本では昨年から各地でデータセンター(DC)の建設が急激に進んでいます。

ChatGPTをはじめとした生成AIの急激な普及、また、企業のクラウドサービス利用が増加、これらを支えるデジタルインフラの拠点としてDCのニーズは大きく膨らんでいます。

このような状況を受け、IT大手が日本への投資を拡大。それに加え台湾・中国の地政学リスク回避の観点で安全なインフラ拠点として日本が選ばれていることもあります。

DCの建設は、首都圏では千葉県の印西市や東京の多摩地区、神奈川の相模原市などに集積。地方では北海道、九州でも進行しています。

局所的に集積するDC、逼迫する電力

DCでは膨大な数のサーバーが稼働、それらが発する大量の熱を冷却するためにまた膨大な電力が必要になります。そして生成AIは桁違いに大きな計算処理を実行、サーバー1台あたりの消費電力が従来の10倍に達するケースもあり、今後はより多くの電力供給が必要となっていきます。

またDCの建設地は、デジタル消費が集中する都市近郊に建設されるため、電力需要が局所的発生するため、供給する電力会社に極めて大きな負担となっていきます。

電力は、発電所から顧客の近くへ効率良く運ぶために電圧を高めて送電されます。変電所は受け取った電圧を徐々に下げて顧客に供給する役割を担い、周辺の電力需要に適合した変電能力が必要になります。消費量が多くなれば、変圧器や送電線を増強はマストです。

局所的に電力消費が急増する場合は、送配電網の建設が間に合わない事態も発生します。

印西市では昨年6月に大型変電所が新設され、これより供給力が1.5倍に増えましたが、今後さらに5?6カ所で同規模のDC建設が見込まれていて、一層の送電網増強が急務になっています。

電力増強を支える送電網関連の設備メーカー

急増する電力需要に応えるには、前述のとおり、変電所や変圧器と送電網の整備が欠かせません。そして電力を運ぶ電線はもちろん、変圧器や緊急時に電力を止める遮断器などの設備が必要になります。

これら送配電インフラを支える技術として注目されているのが、高圧直流送電や高機能変圧器、スマートグリッド制御です。これらを提供する企業には、日立エナジー、三菱電機、住友電工、フジクラ、NEC、富士電機などが挙げられます。また、データセンターの冷却効率を上げる水冷・液冷システムの分野では荏原製作所などがあります。

TSMCやラピダスの大規模半導体工場も大量の電力が必要

九州や北海道でも、大規模半導体工場の建設が進んでいますが、ここでも変電所の不足が指摘されています。今後、九州電力はTSMCの新工場建設に合わせ、熊本県内の2カ所の変電所の増強を決め、投資額は100億円超を見ています。北海道電力も千歳のラピダスの新工場の稼働を視野に2027年を目指し変電所の建設を始めています。

急増していく電力需要への対策は、変電所の新増設だけでなく老朽化した設備の更新も必要になります。また再生可能エネルギーへの活用も急務です。

そして集中してしまいがちなDCの分散も課題で、政府は再生可能エネルギーが豊富な地方にDCを新設する事業者に補助金を出し電力の地産地消を進めています。その中核となる技術が「マイクログリッド」です。地域ごとに電力を自給自足するシステムで、災害時のレジリエンス強化にも寄与します。NECやパナソニック、東芝エネルギーシステムズが構築を進めています。

今後の課題

この生成AIやクラウドといったデジタル消費の爆発的な拡大がもたらす、局所的電力需要の急増ですが、今後の課題は多岐にわたります。

まず、根本問題である供給設備の整備スピードが需要の伸びに追いつかないこと。

そして、解決策一つとして期待される再生可能エネルギーは、安定供給をしていくには蓄電や制御技術の高度化が不可欠ですがその開発・普及が中々進んでいないのも事実です。

DCの建設ラッシュは、単なるインフラの拡充にとどまらず、日本の電力政策・産業政策全体を大きく動かす力を持っています。安定したエネルギー供給体制の構築と、スマートかつ持続可能な電力インフラの整備が、日本の競争力に大きな影響を及ぼすでしょう。

この課題の解決は容易ではなく、今後、企業と国、電力会社と自治体の連携が一層大事になっていくと考えます。

GLOBAL&TRENDバックナンバー

頻発する対立、注目される日本のポジション

崩壊した「新自由主義経済」 変わる世界の枠組み、インフレの時代へ

トランプ政策を遂行する世界最高レベルのブレーン集団「チーム・ホワイトハウス」

アメリカとイギリス「2国間の貿易協定」を合意!トランプ関税の影響は

猛スピードで進化を続ける「AI」始まった覇権争い

一覧に戻る

ライン登録