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エビアンG7が示した『新しい世界秩序』
2026年6月26日掲載
フランス・エビアンで6月15日から開催された2026年のG7サミットは「世界の分断」を象徴するサミットになるかと、大きな注目を集めました。結果はホルムズ海峡の航行再開への協力、重要鉱物資源の供給網確保などの成果をまとめ、一定の協調をアピールして表向きは成功となりました。
アメリカとヨーロッパの溝
冷戦後のG7、サミットは、自由、民主主義、市場経済という共通の価値観を掲げる先進国の結束を示す場でした。しかし今回は、予想どおりところどころで「結束」よりも「温度差」が際立ち、アメリカのトランプ大統領とヨーロッパ各国との距離の存在が明白になりました。
しかしこの対立は突然生まれたものではありません。遡ると、2025年ミュンヘンでの安全保障会議でJ.D.ヴァンス副大統領がヨーロッパ各国を厳しく批判した演説が一つの転換点だったと考えます。ヴァンス氏は、最近のヨーロッパの価値観や安全保障への姿勢をあからさまに批判、アメリカとヨーロッパの亀裂を印象付けました。
その背景にはトランプ政権が掲げる外交思想があると考えます。トランプ氏は一貫して「アメリカ第一」を掲げ、第二次世界大戦後のアメリカが築いてきた国際秩序そのものを見直そうとしています。特に北大西洋条約機構(NATO)については、「防衛費を十分に負担しない加盟国を守る義務はない」と発言し、加盟国の負担が改善されなければアメリカがNATOへの関与を縮小、あるいは事実上離脱の可能性さえ示唆してきました。
ロシアの脅威に直面するヨーロッパ諸国にとって、安全保障はNATOなくして成り立ちません。そのため、このアメリカの姿勢はヨーロッパに大きな不安を与え、双方の溝はさらに深まることとなりました。
その後も両者の距離は縮まらず、今年の2月のアメリカとイスラエルのイラン攻撃によるホルムズ海峡封鎖の際、アメリカが各国への協力を求めましたが、ヨーロッパ各国(日本もですが)は即座に拒否、これに対しトランプ氏は、ヨーロッパ、NATO各国、そして日本にも「失望した、裏切られた」と大きな不満をあからさまにしています。ヨーロッパは外交による解決を重視し、アメリカは同盟国の負担分担を求める、この安全保障に対する考え方の違いが、G7に大きな影響を与えました。
トランプ氏が体現する距離感
そして今回のG7では、アメリカとヨーロッパの距離感を象徴するような出来事が相次ぎました。
まず開催日程。当初予定されていた日程が、トランプ氏の誕生日に重なるため変更されました。国際会議の開催日程が、個人的事情によって調整されることは異例であり、トランプ氏の「G7軽視」との見方が広がりました。
さらに開幕直後の首脳同士の握手では、主催国のマクロン大統領が歩み寄る場面で、トランプ氏が視線を外し、ほとんど正面を向かない様子が世界中に配信されました。外交では、握手や立ち居振る舞いも重要なメッセージとなります
また、イタリアのメローニ首相との写真撮影を巡るやり取りも世界を騒がせました。2人が握手する写真に対し、トランプ氏が「向こうから写真を頼まれて撮影したもの」と発言、それにメローニし氏側が即座に反発し非難の応酬が続き、当初の2人の信頼関係が崩れたものと印象付け、小さな出来事ではありますが、ヨーロッパとアメリカの微妙な空気を象徴する出来事となりました。
求められる世界の経済協調
しかし、ヨーロッパはアメリカとの対立を望んでいるわけではありません。
議長国フランスのマクロン大統領は、今回トランプ氏をベルサイユ宮殿に招くなど最大限の配慮を重ねました。サミットの議題設定もトランプ政権が受け入れやすい内容に調整され、包括的な共同声明を見送り、個別テーマごとの合意にとどめるなど、対立を表面化させない工夫も随所に見られました。フランスの外交は「説得」より「懐柔」を選択したとも言えるでしょう。
こうした背景には、安全保障だけではなく経済問題もあります。止まらない世界の貿易の不均衡。中国は依然として巨額の貿易黒字を維持し、アメリカの経常赤字、ヨーロッパの投資不足、この不均衡により世界の経済成長が低下してしまう可能性があります。
それを避けるためには、経済面での協調をどうとって行くのかが今後重要になっていきます。
変わるG7の意義と日本の立ち位置
今後のG7はどうなっていくのでしょうか。おそらく「価値観を共有する先進国クラブ」という従来の姿から、「個別課題ごとに協力する連合体」へと変化していく可能性があります。安全保障では温度差があっても、AI、重要鉱物、半導体、サプライチェーンでは協力する。中東では立場が違っても、中国への経済安全保障では連携する。従来のような全面一致ではなく、テーマごとの部分連携が新しい国際秩序になっていくのではないでしょうか。
その中で、日本の立場は極めて興味深いものになります。日本と中国の関係は、安全保障や経済安全保障の分野では厳しさを増していますが、アメリカとの同盟関係は極めて良好です。そして、日本はヨーロッパ各国とも価値観を共有しながら、感情的な対立を避ける外交を続けています。
つまり、日本は「アメリカとヨーロッパ」「アメリカとアジア」「ヨーロッパとインド太平洋」をつなぐ数少ない存在なのです。
実際今回のG7でも、日本は重要鉱物の備蓄制度やサプライチェーン強化など、自国の経験を踏まえた具体的な提案を行い、高い評価を受けました。軍事力ではなく経済安全保障分野で国際社会へ貢献できることを示した点は注目に値します。
世界は今、「米中対立」という単純な構図では語れなくなっています。
トランプ政権とヨーロッパの距離と中国への接近、中国とヨーロッパの経済摩擦、中東情勢、エネルギー安全保障、重要鉱物の争奪――それぞれが複雑に絡み合い、新しい国際秩序が模索されています。その中で、日本には現実的な調整役としての役割が求められています。
自由貿易を守りながら経済安全保障も強化する。アメリカとの同盟を維持しながらヨーロッパとも連携する。中国との関係は厳しいですが対話の窓口は閉ざさしていません。こうした「橋渡し役」を果たせる国は、実はそれほど多くありません。
分断が深まる時代だからこそ、異なる立場をつなぐ存在の価値は一段と高まります。
エビアンG7サミットは、世界の分断を改めて浮き彫りにしました。しかし同時に、その分断を埋める存在の重要性も示しました。
これからの国際社会で、日本が果たすべき役割は確実に大きくなっています。
