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『デジタル・リバタリアン』が揺るがすアメリカ ピーター・ティール氏の影響力
2025年9月11日掲載
「デジタル・リバタリアン」という思想が、アメリカで大きな注目を集めています。規制緩和や「小さな政府」を志向する自由主義者「リバタリアン」に、テクノロジーを掛け合わせた新しい潮流です。イーロン・マスク氏などシリコンバレーのテック産業の起業家たちが、政治の世界にも強い影響を与えています。トランプ政権の背景にも彼らの思想があり、これらの思想は、アメリカの未来にも影響を及ぼす程の存在になりつつあります。
「リバタリアン(自由原理主義者)」とは、できるだけ国・政府に頼らず、「自分の自由は自分で守る」という考え方を持つ人々を指します。規制や税金を少なくし、国よりも個人、企業の判断を尊重すべきだと主張します。

「デジタル・リバタリアン」とピーター・ティール氏の存在感
インターネットやデジタル技術が発展する過程で登場したのが「デジタル・リバタリアン」です。彼らは「情報は誰でも自由に扱えるべき」と考え、国や企業による一方的な管理を嫌い、ルールに縛られずに、インターネットのように人々が「分散し自律的」に動く仕組みに未来の可能性を見いだします。
この「デジタル・リバタリアン」の中心的存在が、シリコンバレーの巨人と言われる「ピーター・ティール氏」です。
ティール氏は1998年に電子決済の「ペイパル」を創業、その後「パランティア・テクノロジーズ」や投資ファンド「ファウンダーズ・ファンド」を設立し、Facebookの初期から出資するなどシリコンバレーを象徴する人物です。彼の投資は「他人が注目していない分野に早めに賭ける」ことが特徴で、数々のデジタル・ベンチャーを支えイノベーションを後押ししてきました。
彼が創業した「ペイパル」「パランティア・テクノロジーズ」からは、イーロン・マスク氏を筆頭に後に大きな影響力を持つ多くの起業家を輩出しています。
彼らは「ペイパル・マフィア」「パランティア・マフィア」と呼ばれ、互いに協力し合いながら、YouTube、リンクトイン、テスラ、Facebookといった巨大企業の起業や投資に関わり、シリコンバレーの成長を牽引しました。
トランプの後、アメリカの行方
そのティール氏は、早い段階からトランプ氏を強力に支持。また彼は「規制を嫌いテクノロジー重視の政策」を訴える政治家を支援していますが、その代表が副大統領の「J・D・バンス氏」です。
J・D・バンス氏は、当初トランプ氏を批判していましたが、ティール氏の支援を受け上院選に勝利、そして副大統領に選ばれました。さらに2028年の大統領選への立候補の可能性も高く、ティール氏の影響力がアメリカの次世代リーダー選びにも及んでいることを示しています。
このように、現在のアメリカでは、ティール氏をはじめとする「デジタル・リバタリアン」が産業分野だけでなく政治にも大きな影響を与えています。トランプ政権下では、彼らの後押しによって次々と規制緩和が進み、AIや暗号通貨などの新分野で政策が相次いで打ち出されました。
そして、彼らのようなテック産業の起業家や技術者の中には、「民主主義は時代遅れ」「テクノロジーに強い人々が中心となって国を運営すべきだ」と極端な主張をする「テックライト(右派)」と呼ばれる層が存在します。
彼らは「効率を最優先するテクノロジー主導国家」を唱え、「政府の規制や手続きが減れば、新らたな技術や産業がこれまで以上に発展する」と訴えます。シリコンバレーのテック企業の起業家のカーティス・ヤービン氏は「テックライトの教祖」と呼ばれ、ティール氏にも大きな影響を与えています。
ティール氏は、次の2028年の米大統領選では、JD.バンス氏と現国務長官のルビオ氏を正副大統領候補に推すと言われています。バンス氏は投資会社時代のティール氏の下で学んでいます。
アメリカの政策やテクノロジー分野でも、今後、ピーター・ティール氏をはじめとする『テックマフィア』に注目しなければなりません。
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