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聞けない『夏の終わり』というフレーズと『セミの声』<猛暑2025>の背景と要因

2025年9月1日掲載

2025年の日本では、観測史上最も暑い夏が続いています。8月下旬になっても、メディアからは「各地で厳しい暑さの見込み、熱中症に厳重な警戒が必要」という情報が連日発信され、気象予報士からは「歴代最多・記録を更新!」といったフレーズが、毎日、困りながらも嬉しそうに発せられています。

この数日も、8月31日には名古屋で40度を超え、9月1日には東京でも最高気温が35度以上の「猛暑日」を記録するなど、この猛暑は収まる気配がありません。6月の梅雨明け後いきなり高温となったため、もう約3か月にわたって猛暑が私たちを襲っています。さらに、局地的豪雨をもたらす線状降水帯も複数回発生し、多くの災害を引き起こしています。

夏の終わり.jpg

なぜ今年は、これほど極端で激しい気象現象が発生したのでしょうか。
そこには、偏西風やラニーニャ、インド洋ダイポールモード(IOD)といった、複数の気象要素が複雑に重なりこの猛暑と豪雨をもたらしていました。

要因1:偏西風と高気圧の影響

まず注目すべきは偏西風の蛇行です。偏西風は中緯度の地域の大気循環を決める重要な風で、高気圧や低気圧を押し流す役割を持ちます。今年は、偏西風が平年より北寄りに蛇行し、日本列島上空に「太平洋高気圧」の停滞させました。
その「太平洋高気圧」の張り出しに加えて、もう1つ、標高4,000メートルを超えるチベット高原の加熱によって形成される「チベット高気圧」が、平年より強く日本の方向の北東へ張り出し、「太平洋高気圧」と連動することで、日本列島を二重の高気圧が覆う形となりました。

要因2:ラニーニャとIODの影響

ラニーニャ現象も猛暑に寄与しています。太平洋赤道域の海面水温が平年より低くなるラニーニャは通常は1年程度続くことが多く、偏西風の蛇行や「太平洋高気圧」を強めます。今年の夏はその典型で、日本列島上空の高温域が固定化し長期間の晴天と高温が続いています。

また今年は「インド洋ダイポールモード(IOD)」が「負」の状態となっており、インドネシアや東南アジア付近の海水温を高め、積乱雲の活動を活発化させています。「負のIOD」は南から日本へ湿った空気を送り込み、太平洋高気圧の張り出しを補強。その結果、日本では湿度が上がり、体感温度がさらに上昇しました。そして、湿った空気が停滞すると、大気の不安定化が強まり、線状降水帯による豪雨の発生リスクも高まります。
今回、線状降水帯が複数回発生した背景には、「二重高気圧+偏西風蛇行+負のIOD」という複合要因の重なりがあります。
さらに、台風が少なく海がかき乱される機会が少ないため、日本近海の海面水温が記録的に高くなり、陸上に供給される熱が増幅されました。特に本州の東や日本海北部の高温は、熱帯夜の頻発と日中の気温上昇を助長しました。

今後の展望と秋冬の気象<

こうした複合的な要因が同時に重なる年は非常珍しいとのことです。過去の猛暑年と比較しても、「偏西風の北蛇行」「チベット・太平洋高気圧」の強い連動、「ラニーニャ」「負のIOD」の重なりが揃ったケースは稀とのことですが、地球温暖化の進行に伴い、大気循環の変動や海洋現象の極端化が増え、今後も類似した極端な気象が起きる可能性は高まっています。

経済・社会にも大きな痛手、この秋冬はどうなる?

猛暑は経済全体にも影響を及ぼしています。農業やエネルギー、健康、労働環境に大きな影響があり、社会全体での適応策が急務です。猛暑は単なる季節現象ではなく、日本の経済と暮らしを直撃する気候リスクの一端であることを改めて認識する必要があります。

そして、これからの「秋冬」は、「負のIOD」の影響で日本付近には湿った空気が残り、秋口には長雨や局地的な豪雨の発生が懸念されそうそです。
またラニーニャの影響次第では、西日本を中心に寒冬傾向となる可能性もあります。

猛暑と線状降水帯の頻発、そして秋冬の不安定な気候。これらは、私たちに地球温暖化の影響を強く実感させるに十分なものです。

今年は、まだあまりセミの声も聴いていません。セミの通常のピークは「7月下旬〜8月上旬」と言われていますが、記憶では8月の暑さが治まるころに、シャワーのようの響きわたる音に聴けたと思います。

「夏の終わり」。
多くの歌詞に使われる、もの悲しい、感傷的な情景を感じさせるこの言葉も、今年はまだ聞けていません。
「♪真夏のピークが去った 天気予報士がテレビで言ってた」、、
フジファブリックの「若者のすべて」という曲の歌い出しの歌詞、このフレーズが聞けるのは来週、9月中旬になってしまいそうです。

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