GLOBAL&TREND

猛暑と激動の7月下旬、政治・経済に走った衝撃と転換

2025年7月31日掲載

猛暑が厳しい7月下旬の10日間、日本は大変慌ただしい動きに見舞われています。
スタートは7月20日(日)。参議院選挙が行われ与党(自民・公明)は議席を大きく減らして敗北。3連休が明けた22日(火)には、この結果を受けマーケットは一時的に上昇したものの、その後は調整局面に入りました。石破首相の進退問題が取り沙汰され始め、8月1日に期限を迎える日米相互関税交渉も見通しが立たず、政界・経済界ともに重苦しいムードが漂っていました。

ひまわり.jpg

しかし、その翌日である23日(水)朝、トランプ氏が自身のSNSにて「日米関税交渉合意」を突然発信。まさに急転直下の展開で、与党の敗北からわずか3日後、石破氏への責任論が最高潮に達したそのタイミングでの「スピード合意」は、予想外のサプライズとなり、マーケットは一気に好転。安心感が広がり空気が一変しました。
結果として、20日から23日の4日間で抱えていた二つの不確定要因――参院選と関税交渉――が解消され、日経平均株価は41,000円台を超えマーケットは安堵しました。
この「日米関税交渉合意」については、おそらく与党内でも寝耳に水だったと思われます。仮に事前に兆候を掴んでいれば、選挙終盤に何らかのアピールがなされた可能性もあります。

与党敗北と保守の台頭

今回の選挙では、与党だけでなく立憲民主党や共産党など左派勢力も伸び悩む中で、注目を集めたのが保守系新興勢力である参政党の大躍進です。参政党は比例代表で約740万票を獲得し日本の保守・右派の存在感を国内外に強く印象づけました。
ヨーロッパで起きたよう、外国人労働者や移民政策が争点となると、保守系の支持が拡大する傾向にあります。参政党の得票はまさにその一つの表れであり、世界の視線も集めました。トランプ氏もこの「右派の拡大」を警戒し、関税交渉の早期合意に踏み切ったとも言われています。アメリカも日本の過度な右傾化は望まないというのが本音かもしれません。

また今回の選挙のもう一つの大きな争点は「給付」か「減税」でした。インフレが進行する中、個人消費の落ち込みを防ぐための手段として「減税」を訴えた政党が支持を集めました。この結果、消費税減税をはじめとする積極財政路線が今後の政策の方向になると見られます。現金給付よりも即効性が高いとされるこの方向が打ち出されれば、長期金利の上昇、そして円安、という展開が考えられます。

参議院選挙とトランプ関税の2つが解決したことで、これまで慎重姿勢を貫いていた日銀も利上げに踏み切れる環境が整いました。
これからは過去とは違った「金利のあるインフレの時代」です。インフレ下では現預金の実質価値が目減りし資産防衛の視点が重要性を増します。個人・企業双方、資産をどう守るかが大きなテーマとなります。

●今後の焦点
①日本の政局とマーケット動向

現在、日本政治の注目点は石破首相の進退です。続投の意思を示せば党内でも下ろす手段は限られ、逆に辞任すれば与野党ともに再編が進む可能性があります。
マーケットには「選挙前は動けず」という傾向があります。参院選を終え動き出しはしましたが、今度は「自民党の両院議員総会」で「実質的な選挙」が始まってしまい、政局は不透明になっています。もし石破首相の退任となるとこの混迷は長引きそうです。今のマーケットは企業業績とは直接関係のない「金融政策と政治」という部分で混沌している状況です。しばらくは石破氏・自民党の動きに注目が集まります。

②日銀の判断と米国の動き

金融政策では「アメリカが利下げの方向で日本は利上げ方向」、これを素直に見ると今後は円高とみるのが普通です。
日銀の年内利上げは既定路線となったと言えるでしょうが、植田総裁は学者肌でデータ重視のため、数字に明確な変化が見えるまで動かない可能性もあり、実際の実施は物価や賃金などの数字次第で様子を見る、と予想されます。また前述のように、政治が混沌とし金融政策の見通しが立ちにくい状況です。「インフレ率が高いのに低金利」という、いびつな構造が長引くと金融市場に対する信認も揺らぎかねません。

そして米国では「年内に利下げ1回」がコンセンサスになりつつあります。
トランプ関税によってアメリカがそれ程の経済減速を起こさないという予想も出てきています。現在、この関税の影響は見えず輸出国がその分を補填していると、みられています。「年後半からはインフレが進む」と言われていますが、今の状況を見ていると相互関税はアメリカの消費物価に影響を与えないのでは、という予想も上がってきています。
一方、トランプ氏の為替に対するスタンスのあいまいさも注視が必要です。片方で「ドル高是正」を他国に要求しつつ同時に「強いドル」を標榜するという矛盾を抱え、ドル安を求めるのか、ドル高を保ちたいのか、本人の意図がはっきりしていません。

政局、マーケット、金融政策、国際情勢、このように今、私たちは大きな転換の入口に立たされているようです。
暑い夏は続きます。

GLOBAL&TRENDバックナンバー

参院選の結果は想定内? この次の「日本のチェックポイント」は

インフレは「資産」を減少させる、『複利』という加速度をつけて

急増するデータセンター、逼迫する電力。電力各社の施策と課題

頻発する対立、注目される日本のポジション

崩壊した「新自由主義経済」 変わる世界の枠組み、インフレの時代へ

一覧に戻る

ライン登録