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証券新報 2015号

「セルロースナノファイバー(CNF)」とは、主に植物の繊維を1ミクロンの数百分の1以下(ナノサイズ)まで細かく解きほぐすことで得られる極細の繊維状の素材である。軽量でありながら鋼鉄の5倍以上の強さを持ち、温度変化による伸縮はガラス並みに小さいうえ自由な成形ができるという高い性能を持っている。自然が作り出したこの優れた素材を取り出す技術の研究が進みつつある。環境への負荷が少なく、リサイクル性にも優れている。常温で加工できるため、同様に軽くて強いことが特徴の炭素繊維(カーボンファイバー)などに比べ生産にかかるエネルギーが少なく価格面でも優位性があると目されている。研究段階ではあるが、素材として様々な分野で利用が期待されており、樹脂などと混ぜることで軽くて強い自動車・飛行機のボディーや内装部品などが作れる(軽量化による燃費向上も期待)ほか、透明性を損なわずに加工できるので強度のある液晶・有機ELディスプレイのガラスに替わる基盤材料として注目されている。また酸素などを通さないガスバリア性も高いので、これまで石油由来に頼ってきた包装材料(例えばスナック菓子の袋)なども自然にやさしい材料に置き換えることが可能となる。保湿性があり粘りを出すこともできるので、化粧品や食品の増粘材料としても研究されている。「食品に使うの?」と思った人もいるかもしれないが、セルロースナノファイバーは全ての植物の細胞壁の骨格となる成分であり、野菜などにも含まれている。セルロースナノファイバーを食べることの面白い例にデザートの「ナタデココ」がある。あの透明で独特の噛み応えあるゼリー様のデザート、実はココヤシのジュースが発酵する際にバクテリアが作り出したセルロースナノファイバーで形作られたものである。このようにバクテリアの中にもセルロースを作り出す種が知られ研究されている。曲げられる薄型有機ELディスプレイのデモンストレーションをテレビなどで見たことのある人は多いと思うが、基盤材の研究にはナタデココが多く使われてきた。話を植物由来のものに戻すと、前述のとおりセルロースナノファイバーは全ての植物に含まれるため様々な原料から得ることが可能で、木材だけでなく稲わら、サトウキビやジャガイモの搾りかす、果ては焼酎かすからも得ることができる。セルロースは(植物の場合)太陽と水と二酸化炭素から作り出され地球上に1兆トン以上存在しており、植物が育てば増えていく持続可能な資源である。石油由来や生成にエネルギーを多く使う素材から取って代わることにより化石資源の消費を減らすことができると期待されている。日本は国土の7割が森林である。とかく資源に乏しく原料は輸入に頼っている印象のある日本であるが、セルロースナノファイバーの製品実用化が進めば、国内の資源で作られた材料・製品を輸出していくという構想も練ることができ、戦後の拡大造林政策の後、輸入材におされ有り余ってしまった人工林の諸問題解決の一手となる可能性もある。製紙業界では近年のペーパレス化による紙の需要落ち込み等に対し、パルプからナノ化して作ることのできるセルロースナノファイバー事業の取り組みに積極的である。また、科学・繊維関連企業も応用技術や用途開発を加速させている。政府も注目しており「日本再興戦略( 改訂2014・2015)」にはセルロースナノファイバーの研究開発推進が掲げられ、環境省は来年度にも実証事業を開始する方針だ。強くしなやかで環境に優しい新素材「セルロースナノファイバー」により、様々な分野で起こる変化に要注目と言えるのではないだろうか。自然が作るスゴイ素材「セルロースナノファイバー」02