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証券新報 2012号

通称「ドローン」に向けられる期待と冷たい視線02首相官邸屋上への侵入や、浅草三社祭の会場で飛行させる予告を行ったとして少年が逮捕されるなどの事件で、蜘蛛のような姿の小型無人ヘリコプター、いわゆる「ドローン」は悪い意味ですっかり有名になってしまった。ドローン(Drone:英語で働き蜂の意)とは本来、命令を受けて自律制御で行動する無人の飛行体や車両全般を指し、軍事用の無人偵察・爆撃機からロボットまで幅広く使われる言葉であるが、日本ではメディアにより回転翼が多数あるヘリコプター(マルチコプター)を指す名称であるかのように報じられたため、これが「ドローン」として広く一般に認知された。これにはラジコン等による遠隔操作のみで自律飛行できないものも含まれている。今では本来の意味を知っている専門家もあまり抵抗なく一般認識としてのドローンを指して解説をしたり、開発に携わる企業も主にマルチコプターを取扱った展示会を“ドローン展”と銘打つなど、狭義の「ドローン」の語が一般に広まっているようである。※以下、特に断りが無い場合、上記のようなマルチコプターの「ドローン」を指します。マルチコプターの特徴は、複数の回転翼とジャイロセンサー等による制御で、安定した姿勢の維持や精密な動きが容易に行えることである。ただ部品の複雑さ等により大型の有人搭乗機の実用は広がっておらず、むしろホビー等として小型無人の一般にイメージされるドローンの普及が先行している。飛行するラジコンホビーの中では操作が容易で、カメラを取り付けて自由な動きでドローン視点の空中映像を見たり撮影したりできる。本格的なものではGPSを使用し指定したコースを自律飛行できるものや、自動帰還システムを備えたものなど(ここまでいくと本来のドローンの定義に当てはまる)もある。こうした商品が個人に手の届く値段で一般に販売されているのである。性悪説に立って見れば、身近に高性能なものが出回っており、操作が容易でカメラや物を運んで精密な飛行ができる特性から、悪戯・犯罪・テロ行為などへの悪用方法を想定すれば枚挙に暇がない。ドローンの重要施設への侵入事件は首相官邸だけでなく、アメリカのホワイトハウスでも今年に入って敷地内に墜落する騒動があった。これは非番の米情報機関職員が酒に酔って自宅から飛ばしたものが制御できなくなり意図せず墜落したものだったとのことで一笑に付されたが、5月には周辺を飛行させていた男が拘束される事案も起きている。いずれも大事には至らなかったが、ドローンに対する警備の難しさを物語る出来事と言える。こうした事態を受け、日本の内閣官房等は規制への動きを強めている。また不慮の落下等により人に怪我をさせる危険も懸念され、東京都では都市条例により都立公園等での使用を禁止した。そのほかの都市でも公園などの施設における使用を禁止する動きが広がっている。様々な事件・騒動が報じられ、世間から冷ややかな目を向けられがちなドローンであるが、この性能が幅広い分野において活躍を期待されているのも事実である。ドローンは人が足を踏み入れることが難しい場所の調査に向いており、防災・災害対策等における情報取集に役立つ。具体例として、現在噴火が警戒されている箱根・大涌谷では、立入禁止区域の調査にカメラ付きドローンを導入している。また、福島第1原発で事故を起こした1~3号機の建屋内調査を目的に、障害物を避けながら自律飛行し、バッテリーが少なくなるとベースへ自動帰還し自分でバッテリー交換を行い(交換などによる作業員の被ばくを減らす)長時間の調査が可能なドローンが実証試験段階である。空を飛んでの運搬では、小型ドローンの場合積載量に難があるものの小回りの利いたピンポイントへの搬送が行える利点がある。救急において、ドローンがAED(自動体外式除細動器)や薬等をいち早く現場に送り届ける運用が検討されている。山岳地などで病傷者が発生した場合などに有効な手段と考えられている。物流分野においてアメリカのネット通販大手がドローンによる宅配のテストを行っているが、市街を飛ぶ関係上様々な規制をクリアせねばならず難航しているようである。このビジネスモデルについては日本でも同様の事が言えるため、実用化には時間を要しそうだ。一方日本で、定期便の少ない離島間の海上をドローンが飛んで荷物を運ぶ宅配便事業のプロジェクトがスタートしており、こちらは現実味を帯びて進行している模様である。農業での利用では農薬散布がすぐ頭に浮かぶが、従来の遠隔操作だけでなく、飛行コースを認識し自律飛行により散布する機種の開発が行われているほか、ドローンにセンサーを取り付けることで土壌分析を行い、どこに多くの肥料が必要か分析するなど「スマート農業」への活用を目指した研究も行われている。このほかにも測量・警備・インフラ点検などの業務用ドローンも実用化に向けて開発されており、今後もドローンの新たな活用が模索されていくものと思われる。ただ、前述のように規制強化の動きもあり、(当然一定のルールは必要であるが)行き過ぎた規制となれば新技術により生まれるはずだったビジネスの芽を摘みかねない。日本においてドローンが新たな市場を切り開く存在となるか、悪玉扱いで終わってしまうか、今後の動向が注目される。