ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

q

証券新報 2010号

日本の農業は高齢化および新規就農者の減少・耕作放棄地の増加など深刻な問題を抱えている。さらにTPP(環太平洋パートナーシップ協定)による農作物の関税撤廃・削減等も目前に迫っており、生産性・効率性・競争力のある農業へのシフトが急務となっている。そんな中、注目されているのが「スマート農業(スマートアグリ)」である。スマート農業とはロボット技術やICT(情報・通信技術)を活用して超省力化や高品質生産等を可能にする新たな農業の形のことである。ロボット技術農業機械の自動走行システムや収穫ロボット・除草ロボット(畜産では畜舎掃除ロボット)などの導入による省力化が研究されている。これらロボットは夜間も休まず稼働させることができるため、同じ人員でこれまで限界とされていた規模を超えた経営が可能となる。人による力仕事が必要な場面では、作業者が装着することにより運搬などの重労働の軽減が可能なパワーアシストスーツの開発が進められている。センシング(検知・感知)技術土壌センサーを利用して作成された農地全体の土壌成分マップデータに基づいて施肥を行うシステムにより、生育のバラつきを抑える技術が一部で導入されている。また、水田の水位・水温等の計測や測定結果により水位を遠隔で自動制御する技術などが研究されており、これらを導入することで安定して高い収量・品質の維持が期待できる。また畜産においては、個体の生育状況・健康状態をセンシングする技術の開発により、自動で餌量を調整する自動給餌システム導入や、病気の発生を早期に発見・対応することが可能になると考えられている。ICT技術ICT技術の導入で、ハウス・植物工場の自動環境制御はもとより、前述のセンシング技術で得た情報や栽培履歴・収量などを分析しデータに基づいた最適な栽培・作業計画の策定が可能となる。これまで長い年月をかけて培うものであったベテラン農家の「経験・勘」をデータ化し後継者育成に役立てることも研究されている。また、クラウドシステムの導入により生産者・流通経路などの充実した情報を消費者へ伝える(いわゆるトレーサビリティー)ことを可能にし、「安心・安全」や「作物へのこだわり」といった付加価値をつけることが可能となる。このような先端技術を用いた省力化・経験だけに頼らない農法の確立により、生産性の向上だけでなく、若者や女性の農業への新規参入が期待されている。スマート農業の先進国はオランダである。コンピューター制御による効率的なハウス栽培などが大規模に行なわれ、畜産においても前述のような技術が取り入れられており、日本の九州ほどの国土にもかかわらず農産物の輸出額は米国に次ぐ規模を誇る農業大国となっている。オランダがこうしたスマート農業に取り組むようになった転機は、1980年代にスペインやポルトガル等がEU(当時EC)に加盟したことにより、安価な農産物が大量に輸入されるようになったことへの対抗策からだといわれている。TPPが目前に迫る日本において、政府はオランダのスマート農業に注目している。しかし、エネルギーコスト(オランダは天然ガス産出国)や個々の農家の経営規模の差、そしてオランダの場合陸続きの隣国からの輸入があるからこそ可能だった品目を絞った大量生産戦略など、日本とオランダの環境の違いを見ると、ただオランダのやり方を模倣するだけでは日本の農業活性化には繋がりにくい可能性もある。オランダに学ぶべきことは多々あると思われるが、日本の環境に適した形のスマート農業の確立が期待される。国内でも他分野ではICT・ロボットなどの先端技術がおおいに活用され競争力の源泉となっている。今後、先端技術が日本の農業とどのようなコラボレーションを見せるのか注目されるものと思われる。注目される「スマート農業」日本の農業を変えられるか02