ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

q

証券新報 2008号

「インバウンド」とは観光業界の言葉では「外国人旅行者を誘致すること」という意味になる。観光庁発表の訪日外国人消費動向調査では、平成27年1-3月期の訪日外国人全体の旅行消費額は四半期速報値7,066億円で、前年同期(4,298億円)に比べ64.4%増加。1四半期として過去最高値を記録した。日本への旅行が円安進行で割安になっていること等により外国人観光客は増加傾向であり、2013年には史上初の1,000万人を突破した。東南アジアの訪日ビザ緩和による効果もあって、2014年はそれを上回る1,300万人を超える推計値が政府観光局から発表されている。政府はオリンピック開催の2020年までに訪日観光客2,000万人を目標に掲げ、現在、観光を国の重要な成長戦略のひとつとして取り扱っており、外国人旅行者による国内での消費、いわゆる「インバウンド消費」に関して積極的な施策を行っている。テレビや新聞で、団体の外国人観光客が化粧品やお菓子などを大量に購入してゆく姿が報道されているのを目にした人は多いのではないだろうか。この傾向は以前からあるものの、昨年10月には大幅な制度の改正が行われ、外国人旅行者に対して消費税の免税対象となる品目が、これまでの家電・バッグ・衣料品等に加えて食料品・医薬品・化粧品等消耗品にまで広げられた。この制度改正は今後さらに外国人観光客の旺盛な消費を刺激する可能性があり、大手の百貨店・ディスカウントショップ・ドラッグストアなどは、いち早く免税販売への対応に注力している模様である。免税手続が可能な店舗になるためには所轄の税務署への申請等が必要になるが、観光庁は「さあ、免税店事業者になろう」と謳うウェブサイトを立ち上げ、手続きの解説や相談窓口の紹介を行い全国の免税店拡大を推進している。食料品等が免税の対象となったため、地酒や特産品による地方の活性化が狙いのひとつになっているように思われる。昨年12月には、外国語対応や手続きへの不安を解消できるように、物産センターや商店街において一括の免税カウンター設置を委託することができる制度が創設されている。前述の消費動向調査によれば、現在アジア圏からの観光客が最も買物消費の比率が高い傾向にあり、特に中国人観光客は、旅費の58.9%が「買物代」という高いアンケート結果となっている。免税効果による消費は、しばらくはアジアの観光客により牽引されるものと思われる。一方、欧米やオーストラリアからの観光客の旅費に占める比率で最も高いのは「宿泊料金」である。同調査によると欧米旅行者は団体・パッケージツアーの利用比率が低く、80~90%が旅行を個別に手配している。自分が思い描くコースで日本を観光したいという意向の表れで、買物よりも観光を重視している傾向が伺える。欧米人の来訪比率が高い観光地の例としては、飛騨高山・湯田中渋温泉郷・“ジャパニーズウィスキーの聖地”山崎など、アジアの観光客とは少し異なる地域も人気がある。買物による消費が統計上少ない傾向ではあるが、地方やマニアックな施設にまで足を運ぶ労をいとわない欧米からの観光客も、全国的にインバウンドの恩恵を受けるためには重要な存在であると思われる。また今後、よりディープな日本観光を志向する欧米人観光客にとって、意外な地域が人気を博する可能性もあり、地方では突如として外国人観光客の受け入れ態勢構築が求められるようになる場合もある。買物・観光いずれの目的にせよ、外国人旅行者の多くは旅行の下調べにインターネットを利用する傾向がある。また、旅券・宿泊施設の手配もインターネット経由が主流になりつつある。同調査では「出発前に得た旅行情報源で役に立ったものは何か」というアンケートにおいて、意外なことに「個人のブログ(インターネット上の日記)」が26.6%と最も多い回答を得ている(2位は旅行会社ホームページの19.3%)。現在、外国人旅行者にとっては過去実際に日本を訪れた人の感想「口コミ」が購入商品や観光コースの決定に大きな影響を与えていることが伺える。逆に言えば、国内発の各観光地による外国人旅行者向けインターネット情報が、旅行者の知りたい情報を十分発信できていないことを表しているように思われる。今後、ビッグデータの解析技術を使ったウェブ上の口コミ解析で外国人観光客のニーズを把握することや、グローバルな言語に対応したウェブサイトの構築による情報発信、地方も含めたインターネットでの宿泊施設予約サービス対応などもインバウンドによる効果を日本全国で享受するために乗り越えなくてはならない課題と思われる。そうした課題を解決する力を持つと目される企業は国内に多数存在しており、今後の動向が注目される。どこまで恩恵を受けられるか「インバウンド効果」02